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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 大戦斧の冒険者
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-231話 それぞれの思惑-

 バイブルトでの捜索活動は、思った以上の成果を得られていない。

 それまでに目撃されていた、魔物たちが全くと言っていいほど姿を見せなくなったからだ。

 城壁の内側に住む人々の数が激変したわけでもなく、女性自警団や女性編成の歩兵で魔物を倒したわけでもなく、忽然と姿を消してしまったのだ。その代わりというのも変な話だが、バイブルトの都に集まっていた魔獣の類がよりいっそうに行動的になっている。

 都市の外で野営している、帝国から派遣された治安維持部隊に緊張感が走っている。

 編成されたゴーレムが、壁役としての責務を全うしている事実を得ると、“緋色”サイドでもゴーレムの採用を真剣に考慮し始めた。“緋色”では雇用した傭兵の埋め合わせも兼ねる大事な戦力である。クラン長の個人的な都合だけで先伸ばすことも出来ず、実利をもってマルへの依頼が発せられた。


 “緋色からの発注:納品名 ゴーレム 固体数 100体(スライム頭)”


 と、マルの工房から簡単な書類が送られてきた。

「スライム頭?」

 グワィネズが小首を傾げている。

「なんだ、このスライム頭って??」


「柵の外にいる――アレじゃないんですか?」

 クラン員のひとりが、外のたまねぎ頭を指している。

 ここいらの連中は、親しみを込めて“たまねぎ頭”と呼んでいる。

 肉まんとか、中華ごま...という別の名もついているが、たまねぎ頭が一番多い呼び方だ。

「あれが、来るのか...」

 グワィネズのしょうゆ顔がさらに薄口になった。

「先にも似たようなことを聞いた人が要るようですよ?」


「なんと!」


「“スライム頭”以外に何か乗せられるのかと」

 興味津々でグワィネズが身を乗り出してきた。

「“スライム”に王冠を被せた上位ゴーレムがあると返答したそうです」


「スライムから抜け出せんのか!!」


「恐らくは彼女の趣味なのだと結論を出すほか無く、傭兵団も“スライム頭”を四六時中、見ていたら団員の女性陣が“かわいい”と言い出して、それっきり異を唱えなくなったという話です...」


「あ、あれが? かわいいか???」

 たまねぎ頭が振り返って、“緋色”の天幕を覗き込んでいるように見えた。

 ゴーレムは別段、地獄耳という種族特性を持っている訳ではない。彼らは種族というより、魔術師が何かの作業を円滑に進めるための便利な道具でしかない。いわゆる、魔術式ロボットみたいなものだ。

「あのやろう...俺の天幕を覗きやがって!」

 クラン員数人でグワィネズを押さえ込んで宥めた。

「もう、いつからそんなに喧嘩っぱやい性格に?」


「いい加減、隠者殿のことは吹っ切りましょう!! もっといい女性が居ますって!」

 やや禁句にも近かったが――『何処にいるんだよ、人前で乳揉ませる様な痴女がよ!!』と、叫んでいる。当然、この陣屋には、傭兵団の女性隊員が多くいる。彼女たちにも聞こえるトーンでの叫びだったので、“緋色”の株はますます下がって行くことになる。



 エサ子と兵団は、無事、合流することが出来た。

 その後、千人の兵団がバイブルトに入城を果たすと、その拠点は城壁の警備詰所となっている。

 兵士として徴兵された若い兵士が、はじめて他国とも言える軍隊と遭遇した記念でもあるので、彼らの目に“興奮”という二文字がこぼれ出している。中には、意味も良くわからず“握手”を求めてくる者もあった。

「閣下!」

 ニーズヘッグが大袈裟にもエサ子を目撃すると、滑り込みながら抱きしめている。

 その締め付け、致死に達する勢いだった。

 開放された数分間、エサ子は死者の国手前まで行けた。が、その門前にあった、知り合いの何かに蹴り飛ばされたような気がすると、叫びながら蘇生して泣いた。

「っと、なんで数日しか会わないだけなのに...サバ折りするかなー いや、めっちゃ痛くて死んだじゃん!! ま、何かに蹴られて戻ってきたけどね...」

 エサ子は『あっちこっち痛いよー、お尻も痛いよー』アピールをしている。目当ての槍使い(女の子)に介抱してもらうつもりで、ゴロゴロ転がっているが相手にしてくれる様子はない。

「いや、しかし...数日と言っても、こちらでは1週間以上の話で...」


「姉上と一緒だから、大丈夫なの!」


「剣士殿も心配されて...閣下のスク水を見つめながら」

 ニーズヘッグは背中に鋭く刺す視線を感じた。

 剣士の真横からもメドゥーサの如き怪光線を感じるような気がする。

 それぞれが、それぞれを直視できない気まずい雰囲気へ。

「え... 兄上、未だボクの脱ぎたて持ってたの?」

 エサ子のやや悪魔っぽい笑みを浮かべつつ、『ボクので抜けるなら、正真正銘じゃん』と言い終えて、少し考えて徐々に顔が真っ赤に変化していく。

「...ちょ、え...に、ええ?! 兄上、返して! 返却希望!!!」

 と、突如真っ赤になって騒ぎ出している。

「ふふふ、ようやく気がついたか...メスガキめ!」

 剣士の逆襲が始まる。

 が、その間、槍使いとの関係はギクシャクしていた。



 ドメル子爵の副官と名乗る男と、何やら酷く怪我ばかりが目立つ女剣士が、エサ子の下を訪れている。

 副官は、40を少し越えたあたりの白髪交じり。

 甲冑ではなく、平服にガンベルトのような幅広の帯に直刀を下げていた。

「こんな遠くまで...」

 と、応対しているのが外見的な歳の頃合が近い、ニーズヘッグが担当して副官に合わせた形。

 皮革の手袋についた砂の気配からして、馬の手綱はずっと引いてきた雰囲気だった。馬を操って荒野を駆けたようには見えなかった。

「乾いた大地を通らざる得なかったため、余り小奇麗ではないが...」


「ところで、連れの方は」


「バイブルトへ向かう途中で難儀していたので、少しな」


「まあ、いつかの好でござる。如何なる用件か問うた後、色よい返事が出来なくとも...貴殿とその連れが不自由なことが無いように、こちらで取り計らうと保障いたしましょう」

 ニーズヘッグに他意はない。

 副官の連れも気になるところだが、この時期に彼らから接触してきたことに不思議な縁を感じていた。

 その数日前に、ラインベルクの長老と名乗る一党とも面会する機会があったからだ。

 彼ら曰く――近々、ドメルの小倅が使者を遣わし再び縁が結ばれる。己が中心になるか、或いは端から見守るか...よく考えて行動するがよい――という謎掛けだったが、その使者が副官だという事は認知した。

 問題は、選択の条件だ。

 目下のところ、バイブルトを放り投げて、何かに打ち込むことは槍使かのじょいが許さない。

 彼らのお願いに応える為に出せる兵は100から200まで。

 その指揮にはアズラエルが出向くものと決まっていた。

「さて、どんなお願いごとか」

 ニーズヘッグが寝かしつけたエサ子の姿に、孫を見つめるじじいの視線でつぶやいた。

 乱れた彼女の前髪を指で優しく整えながら、抱えているクッションを抜き取っている。

「おやすみなさい...貪食マンディアン閣下...」

 部屋の隅にあった、蝋燭から光を奪ってニーズヘッグは部屋を出た。

 詰め所の窓から見える月は、いつもよりも大きかったように思える。

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