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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
ある場所、ある世界の原風景、さあ開演です
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-1.5.7話 新造艦-

 翌朝、賢者は何事も無かったように冒険者ギルドに立ち寄ると、案内人がなにやらそわそわしながら出迎えてくれた。

 案内人が差し出したのは缶バッジみたいな徽章だ。

 これを持っていれば、どこの冒険宿でもそれなりのサービスが受けられるというものらしい。

 ブレスト・プレートと呼ばれる徽章は、一流の証であり上位のみが身に付けられるもので賢者には、まだ荷が勝ちすぎるという意味で見送られた。魔獣カルキノスを倒した武勇伝もその証明には成らなかったという事らしい。

「別に構いませんよ」

 賢者にとっては冒険者ギルドにその名を登録したのも、依頼を熟したのも世間知らずを埋めたに過ぎない。この世界の事情を少し知っておく必要があり、穴埋めをする作業は人任せに出来なかっただけだ。

 冒険者ギルドも案内人を通じて、賢者に細やかなオマケを付けたかったが、本部がポッと出の英雄に警戒を解かないでいるそれだけのようだ。



 昨晩の口頭による依頼が、正式にギルドを通じて賢者の下に通告されたのが昼前になった。

 ギルドの方が、内容について先方の依頼主とひと悶着あったような話があり、それで遅れたという噂もあったが、賢者はため息交じりに承諾している。

 水軍強化は国営事業の筈だし、一介の冒険者に頼むものでもないと思われた。

 しかし、それだけ切羽詰まった何かがあるとも考えられる。


 王立ホテルの自室にターバンの連絡員が正座させられていた。

 彼はかれこれ2時間、こんな姿でいる。

「じゃあ、女将軍あいつはこの国の海賊に手を貸してるってことかな?」

 賢者の声に怒気が混じる。

 ローブを脱ぎ散らかして、シャツとフレアパンツ姿で右行ったり、左行ったりしてひたひた歩き回っている。

 その目はいつもより細く殺気に満ちている。

「当初の予定よりも熱が入っているご様子でして」


「それは重要?」


「い、いえ。出過ぎたことです」

 たじろぎながら、ひきつっている。

「余計なことをしないって話じゃ」


「でした...いや、その通りです!」


「...」


「すみません、沈黙は恐ろしすぎです」

 素直な反応だ。

 王立水軍の全体を底上げする必要はないらしい。

 これは依頼を受ける際に、最初に交わした条件だ。

 水軍大臣だと名乗った紳士は、国内の海賊被害についてのみ言及して仔細に語った。


 南洋王国の王都周辺海域には、大小で40もの島がある。

 海賊はこの島々を利用して商船を襲うのだが、その殆どは小舟が最大の小さな勢力でしかない。

 王国が一番厄介だと考えているのが、海賊島が霧の濃い海域にある海賊――別名・霧の幽霊船フライングダッチマン――と、7年周期でふらっと現れる海賊――別名・黒耀眼オブシアス艦隊フラッグ――なんて呼び方をされている連中だという。

 後者の海賊は、艦隊と呼ばれてはいるけども1隻だけ目撃されている。

 常に目撃者と称して、ひとりだけ助ける主義らしい。


 まあ、自信があるからそういう怖い行動をとるのだろう。

 これらの情報で王国水軍としてどっちが株が上がるか天秤に掛ける必要はないけども、しかし、癇に障る話は、女将軍というか水軍の判断にはちょっと納得がいかない。

「ほら、思惑ってのがあるし」


「しかし、お忍びですから」

 連絡員が現実を説く。

 水軍は、敵の内側に敵を作ったにすぎず、政治的にも効果的に南洋王国を苦しめている。

 これは非常に狡猾な手段だ。

「わ、分かってるよ!」


「でも、もーいい!」

 対処する相手は、黒耀眼の艦隊に絞ればいい。

 7年周期で来る相手であれば、これを凌くだけで王国にとって撃退以上に箔が付きそうな話だし。

 まあ、面白いと思える相手なきがした。


「侍従長には、何と?」

 ターバンの連絡員が手もみをしながら問う。

女将軍あいつらの監視を怠らないように! それだけでいいから」

 賢者の荒い鼻息に、連絡員が小さく肩を落とした。

 部屋を出るまで何度もこうべを下げていった。



 賢者が水軍大臣に招かれて、王国の軍港に入ったのはその日の夕方になる。

 手続きで少し手間取った訳だが、軍港の仰々しさを外から十分に観察は出来た。

 言うなれば、要塞だ。

 陸から攻めるにしても、多くの詰め所や兵舎が障害物になって、恐らくは容易に落とせない雰囲気だろう。守戦に長けた将軍が陸戦においてこれを指揮したら、攻略に要する兵の数はおそらく10いや、20万の包囲が必要になるだろう。退路も断つためなら海上戦力も投入する必要がある。

 そんな目で軍港に入ると、その内側も大層な造りだった。

 停泊している軍艦の殆どは、ピンネースだった。

 世界政府で最近開発された、ガレオンという船種に近しい形状をした小型の帆船という位置づけなのが、ピンネースという横組帆装船である。3本のマストを持ち、船首のバウスプリット・セイル、フォアマスト(船首寄りのマスト)に上から、トップセイル、海面ちかくにフォアセイルが張られ、メインマスト(真ん中のマスト)の上から、トップセイル、メインセイルと張られ、最後のミズンマスト(船尾に近いマスト)には大きな三角形のラテンセイルが艤装されている。

 まず、この帆装が標準のスタイルである。

 賢者の目から見て、好奇心を掻き立てる喜びがあった。


 王国の主力艦隊のほぼすべてがこの軍港を母港とする。

 そして、大きく翼を広げたような施設の両脇に造船所があった。

 ピンネースを年間ベースで建造できる国内最大の施設だと、大臣は自慢しながらその生産力を称えている。いや、それは興味深い。100トンや200トンでも数か月は建造に必要な時間を取られてしまう。かつて、太陽の沈まぬ帝国は半年で数百隻の帆船を失った分だけ回復させた神の御業なるものを行使した。

 その恐ろしさは、数年間単位を半年で成し遂げたというレベルの話だ。

 まず、それに匹敵しうる技術があると、彼は賢者に見栄を切ってみせた訳だ。

 そこは、賢者も笑って応じている。

「船は既存のを使うのですか? それとも」

 賢者は、建造中の船を見ている。

 未だ、竜骨だけのベースで手が止まっている船も多い。

「設計までなされるのですか?」

 これは大臣のちょっとした好奇心を惹いた。

 賢者と言えば、魔術的にも学術的にも長じている者がその到達点にいる際に呼ばれる名誉な呼称である。まあ、ぶっちゃけると『先生』と呼んでいるようなものだ――『先生』という職業がないのと一緒でもある――賢者と呼ばれる彼女も、そのあたりの知識は知識以上に心得ている。

 甲板にてバランスを崩すことなく飄々と歩いていたのも経験からだ。

「まあ、嗜みはしていますが」


「王国の技師の方々に手に負えるかどうか?」

 ってちょっと、聞こえるように挑発してみた。

 悪気というより悪戯だ。

 木を削っている親方たちの手が止まった。

 木槌や金槌の音が消える。

「どんな船をご所望で?」

 と、その挑戦を受けて立つめいた表情の大臣がそこにあった。

 紳士的な振舞の彼も、自国の技術に誇りを持っているひとりである。


「排水量は300トン未満、単層の砲列に最大28門の砲郭を持つ軍艦が欲しいですね。船体はシャープで抵抗が小さく、加速性と機動性に富む正に未来の戦艦です」

 はっきり言って技師も含め、誰ひとりも賢者が見ている船の姿を想像することは叶わなかったが、それを見てみたいと思った人物がいた。賢者が目をキラキラと輝かせながら語るさまをみている技師たち本人である。

 だから、それを作ってみたいと思った。

 設計は賢者を中心として進められる。

 想定した300トンよりも100トン増して400になりそうな予感を抑えつつ。

 船体は細くかつ頑丈を求められた――ピンネースでは用いられることが無かった、水密区画が導入される。

「左右に10門の砲蓋を設けます。しかし、防弾性や船体防御は、なるべく失いたくありませんから、甲板長は最大50m以上として、砲と砲の間を広くして弾性を高くします!」

 賢者の発想に技師が腕で応えるを繰り返す。

 材木はライブオーク材を使用している。

 船底に銅板を張るひと手間も。

「これは、水棲動物フジツボが抵抗となって船の機動性を損なわせないようにする為の処置ですので、ご協力を!」

 と、言って銅板加工を国内の彫金師に依頼している。

 ここまででかなりの額が動いていた。

 いや、ピンネースが数隻作れる予算だ。


 船体艤装までで3か月、急ピッチですべての技師が動員された。

 模型を作ってからスタートしたとは思えない速さだ。

 いや、紙ではなく模型とはいえ、現物があったからイメージしやすかったと言った方がいいだろう。

 進水後は、帆の艤装へ取り掛かる。

 南洋王国では初の新型船種誕生である。

「南洋なんで、ノーザン・フリゲートってのはどうですかね?」


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