- C 1341話 死地から脱出せよ 1 -
大遠征イベントの2週目前半で、計画のずさんさが浮き彫りになる。
策定された作戦案の肝は執政官の『王国情報』が基であり、かつての王国領図が導き手となって侵攻ルートが定められてあった。これを第一陣の先遣隊が利用しているのだが、現場判断という名で最後列、橋頭保が敷かれた、境都“キャニスタロック”へ苦情が申し立てられてた。
境都“キャニスタロック”には、司令部なるものが置かれ。
憂国軍の中でひと握りの『大将』閣下と、立案者バターナイフ代将らが詰め込まれてて。
部下頼みに物資の調達で東奔西走してた。
本人は「嗚呼、忙しい。猫の手も借りたいものです!!」と宣ってたようだが。
本当に働いているのは彼の下にある兵站部の方々スタッフである。
最前線からの苦情は実に簡潔。
『このまま闇雲に戦線を広げるよりも、一度収拾がつく地点まで戻り』
立案者が遠見の鏡の前で咳払いをして見せた。
『何のつもりだね貴君は?』
『栄えある憂国軍人が敵前で尻尾を巻いて逃げだすというのですか?』
いけませんねえと、フガフガ鼻を鳴らしてた。
本人はイケた笑いだと思ってるんだろうけども。
それは喧嘩売ってますよ?
『こちらは再三の襲撃に、遭遇戦に応じて臨機に行動しているつもりだが』
『つもりではねえ』
老練な将が顎鬚を弄りつつ。
『貴君がここに来て指揮を執ってみてくれ。我々には荷が克ち過ぎたと認めて退役しようではないか』
なんて嫌みを言ってみた。
まあ、すでに右も左も分からない島の中央部に足を踏み込んでるし。
司令部から最前列に出向してきたとしても幾日かかる事やら。
いたって現実的ではないんだけどね。
『できもしない事を!!!』
ふむ。
其れは分かってるんだ。
ため息がマルチ通信されてる“遠見の鏡”を通して聞こえた。
誰の息だったかは問題ではない。
『計画案通りに事が万事進むとは思っていないが、この領図による貴族領は今のところどこにも存在しない。また、補給の息継ぎとして計画されていた街の所在も本当に裏取りは取ったのかと...甚だ疑問である』
故の一時、集結補正案なのだが。
バターナイフは頑として受け継がなかった。
憂国軍参謀本部から侵攻案が出されなかった理由。
いわゆる情報の裏取りが曖昧だったからだ。
例えば――
捕虜としたダークエルフ達が島の中心部には肥沃な大地があって、王国を支える穀倉地帯が広がっているとかいう噂話だ。これらの翻訳は執政官からが貸し出している、白エルフなる妖精が人類サイドに伝えたもので、エルフ古語に精通した獣人族や、研究者とは面談のひとつも行っていない。
エルフらだけでなく。
アップルクロス領の獣人たちも、この手の話題には箝口令が敷かれてた雰囲気があった。
仲のいい取引相手が島の中央部へ侵攻する。
ちょっと複雑な気分になった筈なのだが。
彼らは眉一つ動揺しなかったのだ。
これらが一部の憂国軍サイドで気になったと、後に吐露している。
だってあの時の熱に浮かされてた開拓エリアで水を差す言葉が如何に危険化は。
外の世界で生きて来てた傭兵たちには痛いほどわかってた。
一回、痛い目を見れば目も覚めるだろ的な。




