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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 大戦斧の冒険者
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-202話 バイブルト州 ②-

 州都バイブルトは、南に主要の街道が走り街の半分以上を、切り立つ岩肌の一部で城壁の代わりとしている。山と都市が肩を並べているような、そういう関係性の都市である。

 これはかつて、石窟寺院から発展されて興された、街を歴史に持つ。増設繰り返し、現在の城壁を有するまでに百年以上も、賭けてきた都市経営の形がここにある。が、これでも未だ、発展途中という姿だという。

 州侯である男爵一族がこの街の主人となってからは、街の中に庭園と川が整備された。

 庭園は、市民のこころを豊かにして河川の整備は、井戸水に頼ることが無くなったことが大きい。

 しかし、今でも街のそれぞれの区では、生活井戸は健在で豊かな地下水を汲み上げられる。

 他には、地下に貯水池も作られた。高地の自然災害と言えば、日照りや水害などのであるから、それらへの計画対処と思えば、かなり進んだ考えを有している。こういう施策にはやはり、莫大な“金”が必要になる。

 男爵の資金力は、州内で生産する鉱石貿易であった。

 男爵かれらの商才による貢献により、バイブルト州は鉱山収益によって大きく栄えた州となる。

 やはり政治は、金の力である。

 州全体の収益が、経済力が高まると、それらを生み出している源流みなもとに集まる仕組みだ。

 シュハネ男爵家の資産と力も同時に高まり、それまでに州内には大小の様々な有力豪族と、貴族が混在していた。そのひとりひとりが、シュハネ男爵をその一族を惣領として持ち上げるようになる。圧力や暴力ではなく、金の魅力だけで貴族の心を掴んだのだ。

 そうやって、百と数十年で一族は、この地域を平定したのだ。


 と、これまでは男爵家かれら一族の貢献の話だ。

 セイラム教の聖都が賊軍によって陥落する、少し前から事件は起きていた。

 いや、これらの謀略はかりごとは、最初の書き手は帝国だった。

 隣国のイズーガルドへ、ちょっかいを出されないようにするためだ。


 少し、イズーガルドの話をしよう。

 エルザン王国の西には、海峡を挟んで東西の半島に跨った国があった。

 それがイズーガルド王国だ。

 かつては、ブレーメル・イス第一帝国という国土の一部が、帝国の崩壊とともに分裂し国を興した経緯がある。また、南洋へ続く広大な海の玄関口としての面と、グラスノザルツ第二帝国に匹敵する海軍力でその名を刻む国だった。いや、今、この現在でも王国は、反帝国の旗手を務めている。

 魔王軍の侵攻にかこつけて帝国は、切り崩せる地域から版図の拡大に着手してきた。

 人々は、魔軍の抵抗と領土拡大の野望を露骨に掲げる帝国と、ふたつの敵に悩まされた。

 そこで、イズーガルド王国は旗手として立ち上がり、反帝国同盟を興した訳だ。


 そこは総本山――旗手を堕とせば、同盟は瓦解し形勢不利を悟って傘下に下ると、大賢者も安易に思ってしまったのが彼らの不幸だった。イズーガルドは、国王自らが国権を放棄した。しかし、市民たちの地下組織が同時に蜂起を発して、占領政策への抵抗運動を開始したのだ。


 “狼煙、あがる”だ。


 それまで従順だった各地の新しい占領地でも一斉に抵抗運動が開始される。

 イズーガルドの蜂起によって各地で、大規模な抵抗戦争が起きている。

 エルザン王国も本来は、ブレーメル・イス第一帝国の版図に憧れを抱いていた。かつての地をひと度、統一できれば、かつての帝国と比肩されるような大国になれるという夢物語だ。その野望を刺激しかねない事態に横槍を嫌った帝国の策が、エルザンを内側から崩壊させてしまった。

 舵の利かない船となってしまったこと、それが帝国にとっての誤算。

 エルザンで生まれた悪意は、バイブルトに飛び火していた。



 柘植の下忍に依頼された一行は、一晩の間で煮詰まった家族会議を行った。

 貴族連合の土地から脱するという目的の一部は解決できる。しかし、結果的には、法国のえにしは切れていないという状況が残る。直接的ではないが、柘植という男と繋がることへの懸念は、モーリアン卿から指摘された。

「閣下が下す決断なら、我々に拒む権利は在りません。しかし...」


「分かってる。分かってるけど...」

 剣士が彼女のボブショートカットに切り揃えた頭を撫でている。

「こいつは、自分が辛いところから這い出て来たから、似た境遇の奴を見ると他人事には出来ないんだ。ま、典型的なお人好しさ。だけど、こいついい面だからな...」

 剣士の膝の上にそっと、移動しようとするエサ子の腕が引かれた。

 見れば、槍使い(女)のいやに怖い顔がそこにあった。

「あとでいい?」


「は、はい...」


「しかし、依頼を受けるとしての報酬は?」

 ニーズヘッグがエサ子に問う。

 彼女も、部屋の隅に簀巻きになっている忍者へ視線を向けた。

「その辺...」


「出来高制で、柘植から話をさせます...サル」

 スキルが忍者で、中身が営業マンみたいなやつだ。

 結局、旨味ゼロで乗せられたような感じがする。

 エサ子の弱いところ突かれた当たりは、忍者の皮を被った官吏のような面もある。

「いやー、お受けして貰って...良かったサル」



 宿屋の裏てにエサ子と、槍使いがあった。

 150cmにも満たないエサ子と、170cmに手が届きそうな槍使いの長身が目立った。

 これだけ大きいと、『何かスポーツされてました?』『バスケット? バレーボール?』なんてセリフを何度、聞かされたことか。槍使いの社交辞令は、飾り立ての無いストレートな物言いだ『何もしてねーよ! あたしは帰宅部だ!!!』と吠えていた。

 家族が皆、長身だったのも影響しているのだろう。

 槍使いも中学までは、テニスを齧っていた。

 ただ、自慢できる成績を残せなかったから、続けていないだけだ。

 高校に入ると、スポーツ系部活から疎遠になった。今も続けていたら、このゲームには入っていなかっただろうと思っている。剣士と出会っていないだろうし、エサ子とも――面白い巡り合わせだと感じられざる得ない。

「リアルで会える?」

 槍使いが呟く。

 他意は無いのだが、時々変な噂を耳にする。

 外部サイトの変なネタ――ゲーム内に住んでるプレイヤーがいる――というもの。

 異世界転生小説ばりの与太話だ。

 だが、彼らは“あちらは”といった変な言い回しをするのだと言う。

「ええ、でも何で?」


「――ん、お姉ちゃんのお悩み相談、聞いてくれる?」

 これと言って悩みらしい悩みなんて無かった。

 エサ子の怪しさを払拭したいというか、有耶無耶にされていた部分を解決したい。と、槍使いが持つ、うにゃぐにゃのこころの絡まった紐を解きたいと思ったからだ。これは、自分一人の単なる我儘で、エサ子本人が付き合う必要はない。ただ、彼女がリアルに実在しないと知れば、高度なAIで組まれたNPCという可能性と――?

「え?」


「は?...な、何?」

 エサ子の方が驚いている。

 頬に手を当てて、白い息が小さな口から洩れていた。

「えっと、リアルに会えるの?」


「あ、うん。目印無いと姉上を判別できないかも...知れないけど」

 頭の上のアホ毛がくるくる回っている。

 少し緊張気味のようだ。

「あれ? あらら...」

 当初の目論見が音を立てて崩れている感じがする。

 高度のAIの話はどこへ? いや、そもそも転生話はと壊れかけた槍使いの孔から煙でも吹き出しそうな赤面が示すアイコンは“(〃△〃)”しか思い浮かべられなかった。

「じゃ、じゃあ! ボクが目印を付けて待ってるね!!」

 と、リアルで相対する話がとんとん拍子で決まっていく。

 槍使いの方は思考停止気味で、後にログを読み返して知ることになる。


 翌日の学校帰りを焦点に定め、都内の忠犬前ベンチで待ち合わせた。

 槍使いは、まさかの学生服ブレザー姿で目的の場所に行くことになろうとは思ってもみなかった。

 いや、そもそも都内より離れた地域だったら辿り着けないじゃないかと、バスの中で独り言ちている。

 ログの中のエサ子は、少し大人びた感じで槍使いに語り掛けていた。

 ゲームの中では妹のように接してきたが、リアルでは逆に年上だったら――どう接するべきかなどとひとり問答を繰り返し、忠犬広場へ降り立つ。

 噂の住人だと思ってバツの悪いことをしたと反省していると――ベンチに腰をかける大きな鍔の帽子をかぶる小柄な子を発見する。


「あ...エサちゃん...」

 微かに聞こえるであろう囁き声で彼女は呟いた。

「っふ、いつもの姉上はどこへ行ったのですか? ボクも久しぶりに外に出てきて不安なんですから、ちゃんと手を引いて遊びに付き合ってください!」

 と、帽子の子は顔をあげて、槍使いを見つめた。

 その顔には面影を感じる――ゲームの中で泣いたり、笑ったり、苦しんだり、痛がったり...いつものエサ子の顔がある。服装の選び方は兎も角も、高そうな雰囲気の小物で纏められた小さな娘だ。

「エサちゃん、いくつ?」


「あれ? 言ってませんでした...ボク14ですよ...ん? 出会った時に自己紹介した筈なのになあ」


「え? 設定年齢じゃなくて」


「あ、ええ? 何、設定? ええ」


「...忘れてください」

 言ってたと思いだしている。

 丁度、1年前に出会った頃、13歳だって言ってた――槍使いは真に受けてなかった。痛い姫プレイのオッサンとか、キッズだと思ってたからだ。まさか、ここまで絆深く関わるような存在になるとは思ってもみなかった。

 百合ごっことか――あれ?とふと思う。剣士あいつは、何歳いや、そもそも男の子なのか?――と、いう疑問は、実に面倒な火が燃えるものだ。女の子らしい共感を感じたことは無いが、そもそも立場が変われば、或いは立ち位置でロールを変えれば、性質だって変化する。

 男役でプレイしてた時は、“男の子だったら”を追求していった結果、リアルの生活に支障が出るほど、サバサバとした性格になってしまった。

 端々で女の子が出る。

 これは仕方ない、本人の素性なのだから。

 それでも多くは、表面だけで中身をとやかく詮索するのは、変態だけだ。

「~♪ 姉上とお買い物~ たのしいぃー」

 ゲームというフィールドでも同じような光景を見たことがある。

 エサ子が先頭でスキップを踏んでいる。

 槍使いが男だった時も、そして女に戻った時もこうして、エサ子が小躍りしながら街の市場を歩いていた。小動物との散歩みたいに思ってみていたが、これは槍使いの心がほっこりする安定剤。いつまでも視て痛い光景だ。

「ねえ、エサちゃん...君って、何者?」

 槍使いが問うた。

 エサ子は、振り返らずに応える。

「第三席、貪食マンディアン...」


 槍使いは、二段ベッドの下階で飛び跳ねるように起きると、天井に勢いよく額を打ちつけた。

 あまりにも恐ろしい夢だったように思える。記憶には残って居ないが、全身が汗でびっしょりなのはそのせいであろう。下着は、失禁でもしたかのような湿り具合だ。

「あちゃー」

 額の瘤も大きく腫れだしているし、何より目の前には星が飛んで、チカチカしている。

「今、凄い突き上げられたぞ!?」

 と、上階で寝ていた剣士が下階の槍使いを不思議そうに見下ろしている。

「お前らしくも無い? 悪夢で覚醒めるなんて何か悪いもんでも喰い合わせたのか?」


「いや、悪い起こしたな...」


「凄かったぞ。ケツに一撃喰らったような突き上げでな」

 と、大笑いしている。

「バカ野郎」


「ま、あれだ...明日は早い。依頼主の話では、逃げた奴隷は魔獣並みだそうだ」

 あれ? この流れはどこかで――と、槍使いは心のどこかで小さく呟いた。

 いつか見た感覚。


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