- C 1216話 マルが士官学校にお受験する 1 -
エルフの王国軍は四季ごとの季間入隊と、月ごとに募集が掛かる予備練兵科入隊の方法がある。
どれも志願制が重要視されているので、強制や義務といったものとはやや遠いところにあった。
マルがお受験するのは。
予備練兵科入隊の更に下位にあたる、仮入隊というもの。
毎月の志願兵が多く希望されてくるためにもう一段、仮受けみたいなポジショニングに置いて。
少し頭を冷やさせようというものだ。
何せ、動機が動機で。
「いつか自分もひと旗挙げて、英傑と呼ばれる将軍になる」という一攫千金から出た妄想に付き合わされているものだ。不景気だからではないが、若者たちの浮かれ熱の原因は客将であるデュラハンの『俺みたいなゴロつきでも将になれる』が背中を押しているようだといった。
十代の若いエルフや亜人たちが面接で、そう口にしたのだから間違いはない。
マルは模範解答のように。
「一族の命運を賭けて」
と、説いてた。
志願書類にも似たニュアンスの文言が並び、監督官が唸ってた。
入らせたい本音はソコにある。
問題は身長だ。
受験内容は、身体の健康さと成長具合である。
仮の仮入隊なので実のところ、一般常識程度の学力と体力さえあれば問題なく通過する。
そう、わたしと蒼には合格通知が来た。
◇
マルの下には。
「選抜試験で再受験って? 何だろ???」
わたしらに聞かれても。
馴染の店のように。
顔役がちょいと顔を出していくようになった頃。
彼女のソレ。
選抜試験会場の案内に目を止めた。
「なーいす、たいみーんぐ!!」
戦鬼さんのノリのいい声音で、皆が訝しむ。
悪いけど、あなたは庭の草むしりをお願いしますね。
「――なんだい? あの巨漢は、オーガとか」
「違います、違います」
粗茶ですと副官が玉露を勧めた。
市場で購入した客向けの緑茶だ。
この島の何処かで栽培されてるようで、他にも紅茶とか、抹茶に、珈琲なんてのもあるようだけども。
豆類は少し値が張る。
「マル坊と、他のみなも。俺の家業の事は裏働きしてくれてるから」
分かってるだろうがって続く。
顔役のソレもマイルドに表向きの他所他所しいもので。
裏社会の頭目という位置づけだ。
マルは、それを知ってもなお、顔役が持ち込んだ案件に深く問わずに解決策を案じた。
ま、片付けて上げたのだが。
それらの功績はボスから、依頼主へ包み隠さずに挙げられてた。
「まあ、他言無用って流れだったから話すことじゃあなかったな」