- C 1210話 マルのお散歩 5 -
とりあえずは。
朗報と言っていいかは微妙な報告が、リーパーズの地下都市に持ち込まれる。
人質にされてた意識と共に、コクーンの隊員たちが無事に帰還できたというのだ。
ただし精神疾患といってもいいのか。
解放された人々は“死亡”で解き放たれたようなことを告げ。
円満解決にはほど遠い。
恐らく気分の良いものではなかったようだ。
そして、彼らには表には見えない傷がつけられた――心に大きな傷のことである。
トラウマだ。
カニの鋭い足爪に突き刺されたり、引きずられてプチプチとはじけ飛んだり。
或いは喰われもした。
『カニが怖い、カニが怖い』
これは未だいい。
『腕がぁああああ!!』
とか
『足、俺の足がぁああ!!』
なんて部位が失って錯乱の末に自殺した者もいっしょくたに帰還したのだ。
ただし、この事件によって。
マルやわたしたちが、エルフの王国にあることがハナさんたち下に共有されることとなった。
◇
ハナさん側の会議は踊った。
結局のところ、何もわかって無かった時と大差がない。
マルとの物理的な距離感と、精神的な距離感。
寄り添えないもどかしさとかもある。
「エルフの国か。いずれは到達するだろうステージだとしても、さすがに一朝一夕にはいかんだろうね。少なくとも障害として必ず立ちはだかるシステムの『鬼』がある!」
ウナさんの厨房勤めはかなり長くなった。
いや、彼女が料理好きだったとは。
「いあ、普段はこんなに台所に立つことは無いよ。むしろ、コンビニ飯派でな。容器の方をさっと水洗いする程度でゴミ袋に詰め込んで、だ。マンションの自治会長さんに呼び出されて...『お父さんか、お母さんはが(共働きで毎日)居ないのも分かるけど? 分別できないようでは人工島のどの区でも受け入れられないよ?』なんて怒られる日々だよ」
と、ぶっちゃけられた。
お、おお。
ウナさんがミニマムだから、小学生扱いかな、コレ。
「ま、なるように」
「なるようになるさで、片付けては!!!」
座ってた椅子を蹴り飛ばしてハナさんが立つ。
彼女らしからぬ姿だし。
冷静さを欠くとは。
「エサちゃんを見習いな」
ウナさんも心配なんだ。
心配だから台所に立ってメシの準備をしている。
ま、わざと手の込んだ料理になっているようだが。
動きが止まると色々、悪い事ばかり考えてしまうから。
「エサ...」
――寝てた。
会議がなげぇんだよ。
そんな声が出そうなくらいの沈黙と、疲労とか徒労とか。
答えが出ないのに唸る日々。
「あ、アーサー卿は?!」
思い出してあげた。
卿なら自室でトレーニングだ。
基礎体力を上げると、フィジカルボーナスが毎日+1される。
各項目へ+1のアップ行動を行うと、
筋力や体力へ振れば被ダメ、与ダメに影響するし。
瞬発や生命なら抵抗力なんかが大幅に上がる。
やっぱり負けたのが悔しかったのだ。
次こそはリベンジと行きたいところなのだが。
ダークエルフにとっての英雄たちは、その時――。