- C 1205話 宙、駆けるナイフ使い 5 -
「質量があるような残像だって?!」
何を言ってるんだばりにウナさんが、
厨房から、ひょこひょこ歩いてきて焼き飯を卓上に置く。
皿を180度回転させて、レンゲが握りやすい位置へ。
俯き元気が無いアーサー卿に「んー、んんー」と促して「喰え!」と。
涙が流れてたかは定かじゃないけども。
イケメンの青年が、
「旨いです」
鼻をすすって頬張ってた。
◇
卿はその試合、地獄のリスキルを体験した。
試合の流れから一方的なキルデスの殴り合いに発展することがある。
これが起こるのは専ら、初動後だ。
ローカルルールによる、
『紳士協定』――試合開始の約3~4分間、2ないし3つの『玉将』の首を初手で取り合う手段で。
例え、遭遇しても初手では互いに切り結ばないってのが、協定の内容だ。
これにペナルティはない。
拠点強襲と、1プレイヤーを襲撃するのとでは個人が得る戦功ポイントは。
で、
初動の一手が時間オーバー。
つまりはしくじった者から拠点の防衛に湧いてくるわけで。
早くクリスタルを割ったチームは、貪欲に次の拠点を襲撃するものだけど。
2個目からは両軍ともに目隠しになる。
超大規模戦でも無い限りは、すべてがオープンなのは珍しい。
さて。
焼き飯がすっかりなくなった皿の上にレンゲが置かれた。
「どうだい、落ち着いたかい?」
1部屋、通算12回のデス。
スキルのコストと、装備コストも下げれば自前の強化外骨格で再出撃するクールタイムの短縮が可能になる。最大コストの状態だと、リスポーン可能時間が2分半にもなるので――よっぽど余裕のある部屋なら怒られるレベルではない。
そう、怒られる。
アーサー卿も、部屋の友軍から怒られたタイプの人だ。
まあ、こちらは...
『何度も死に戻るんじゃねえよ!! 戦力ゲージがミリじゃなくてセンチ単位でバンバン短くなってんじゃねえか!!!』くらいの語気の強い口調で、指揮官3人から怒られた。
いや、普通3人もいれば、ひとりくらいは庇ってくれる人もいるんだが。
事情が事情で――
アーサー卿が逃げ回ることで、被害は拡大し。
災害級の厄介者へ。
つまるところは“通報案件”だ。
MPKも出来る、これが公式の分かり易いルールで。
戦功ポイントを自らの腕で勝ち取る。
男の子の矜持めいたもんを賭けてた群れにぶつければ。
当然。
禿げるし、苛立ちからの台パンもある。
ヘッドギアを剝ぎ取って、床に叩きつけた猛者もあった。
最後は生身の兵士で、踏まれて死んだ。
「うわああああ」
トラウマだ。
卿が、元気の無い理由はこれだ。
「ま、ウナさんから言えるのは、ドンマイだけだ」
「ウナサンドもあるの?!」
食堂入り口にあったエサ子さんの第一声はとても軽やかだった。
なんだろね。
重たい空気が吹き飛んでいったよ。