- C 1198話 王都と衛兵 3 -
『あ、はい... 王太子殿下は末殿下を秘密裡に捜索しておいででした』
これが廃嫡寸前の継嗣保留になるのか。
「あの子は、遊学したのではなくて?」
領内を大隊規模の兵と共に回っている筈だった。
捜索されるような事態になれば。
当然、報せが入る。
『王都の外まで間者を飛ばしてみましたところ、確かに襲撃された痕跡が散見されました』
持ってた扇が手の内から滑り落ちる。
まさに扇が王子と被ってた。
可愛がってはいたけども後継の列に並ぶには幼過ぎる。
いや、唯一の実子だと考えれば、その裏事情を知る幾人かは画策でもしてくるかもしれない。
女王は、先々代と先代の姉に代わって戴冠した人だ。
女帝リヒャルディスから血を受け継ぐアーデルハイト女王が末娘『ディートリヒ2世』。
長姉の息子を王太子に迎え、実子には継承問題から遠ざけるように遠い数字が与えられた。
そうして守ったのにも関わらず。
「なぜ?!」
そう考える。
王太子は待っていればいずれ玉座が手に入る。
彼女の治世はエルフの寿命からすればそれほど長くはない。
王太子が成人すれば王冠は自動的に彼に禅譲されるのだ。
『王太子は襲撃者ではありません!!』
それ、重要です。
ようやく話が動く。
「え?」
『襲撃されたという報せを受け取ったひとりに過ぎません。駆け込んだのが王子の供回りではなく、投げ文だったことを鑑みて、事実確認のために手の者を割いて...秘密裡に行動してたようなのです。王族のひとりが狙われたというのは大事ですから』
公に騒ぎ立てて、密書こそ嘘偽りだった場合の心象はよくない。
王太子は何か悪い病気でも患っているのかとか、身内には映らなくとも。
周りの目が重要なのだ。
玉座について奇行がバレても致命的ではない。
暴君だったり、悪女だったりしても。
それは握りつぶせる。
もっとも。
反乱の兆しは育てるかもしれないが。
先の代の女王たちが遺した王位継承者の数がやや、多いのが難点で。
長子継承が一番、波風の立たないパターンなのだが。
どうも。
それさえも許してもらえそうにないようだ。
『――故に、義母上さまにはお話が出来なかったと思われます。王太子も軽率であったことは認められています』
裏取りに即して事情も問い質している。
別室で控えている旨も伝えて、
侍女長は抱えてた足を崩して立ち上がろうとした。
で。
彼女を抑え込んだのは女王、本人。
「おい、こら待て」
『え?』
「うちの子はどうなってんだよ!!」
女王の口調が市井っぽくなる。
彼女、王宮に戻る前まで王都の外で“冒険者”をしてた。
ちょっと流行りのやんちゃ姫冒険者で。
侍女長との仲は、仕事仲間だった。
酔って侍女長に嚙みついた後が、痣になって残ってる――お尻の肉に。
『えっとー』
その晩。
別室に正座させられた反省者が2名あった。