- C 1195話 王都 5 -
「察しが良くなったんじゃない?」
珍しい。
ほんとうに珍しくマルがわたしを持ち上げてくる。
褒めて伸ばす方針にでも。
「いいや、そういう風に捉えるなら、次からはずっと厳しくするからね?」
ごめんなさい。
「別にふらっとぶらぶら散歩してたわけじゃない。重要な施設のスケッチに予測可能な或いは、聞き込みの末の情報をこの手帳の中に落とし込んだのは、ボク自身が忘れない為なんだけどね。書いてて思ったのは一見すると不釣り合いな文明を感じさせるのに、どこか安心さえする便利さもある」
公衆トイレを指さした。
何の変哲もないと思ったけど。
街並みと、人々の服装、いやさ生活レベルからすると。
「9世紀後半、目の粗い生地の反物から作ったような簡素さを感じる。また、巡回の兵士が、フルプレートではなく厚手の皮革と青銅の部分鎧なんかが頭を過った」
合金技術は余ほどでなければ古くからあった。
か、或いは自然と運よく遭遇したとか。
「純粋に街の中が治安がいいとかでは?」
「うん、治安がいい理由で最小限の武装という可能性もあるけど。街を覆う城壁の高さは尋常じゃない。最奥の方はもっと高く、街の端にいるとはいっても霞むほどに見えるってのはちょっと異常だろうねえ。これより先への入城は拒否するとか、そんな気さえする」
マルの本音から言えば。
気に食わない――だ。
◇
露店までの道のりを、逆に辿りながら。
入城から次の城門までの距離を歩幅感覚で測るつもりで踏破する。
およそ1辺当たり数キロメートルはある。
どこぞの平地城みたいな雰囲気で。
それがまだ外の外っぽい城郭のいちぶのようだ。
「仮に敵襲があるとしたら、このあたりのあばら家や、雑居、1キロメートル単位に囲むよう配置された寺院からすると、第一次防衛線っぽさがあるね。天ちゃんが巡回兵士に呼び止められたのも、偶然じゃないんだよ?」
マル曰く、櫓か、狼煙が見える砦の近くだったから。
「砦?!」
「うんうん砦。教会とか寺院あったでしょ?」
わたし目が泳ぐ。
たしか――「それは子供のする事でしょう」とか、念仏唱えてて。
気が付いたらいつ手に入れたかも分からない串焼きが両手をふさいでた。
「もう!!」
わたしらは露店に戻ってきて。
余計なもんを見てしまった。
ちんぴらに(自ら)絡みに行った戦鬼さんの姿をだ。
顛末は省いて。
『麦酒は如何かー』
なんてダミ声で売ってたわけだ。
わたしに言わせれば、だ。
それこそ蒼にさせるべきだった案件だった。
だが、彼は「営業なら任せろと!」豪語して。
なんでか、ちんぴらに喧嘩を押し売りに逝ったところだった。