- C 1190話 騎士王、奔る 5 -
さて、捕縛されたダークエルフが語るのは。
『我々もずっと相互に会話が成立するような状況を待っていたのだが、一体ここは何処なのだ?!』
と、AIが読み上げていた。
翻訳の都合上、声音がブレて聞こえる。
ハナさんや、ウナさんも首をかしげて。
騎士王は瞳孔が開きっぱなしのような。
流石にこういう問答は予想外だった。
「どこって、...どこ?!」
場所じゃない。
世界の変容からして、ダークエルフはありのままを問うた。
それに応えようとして、ハナさんがバグった。
「っ、言葉に詰まるな。場所としてなら島大陸とされる『最後の楽園アヴァロン』かつては林檎の木が生える妖精の国とも、星の内海に浮かぶ生命の島とも呼ばれてたものだが。其れでは回答にはならんのだろ?」
ウナさんが物知りだった。
年長者だからとはぐらかしてたけど、料理本の数冊の中に。
攻略本などが見え隠れしてた。
カンニングは良くないですなあ。
「――背景ではないとすると、ロボットと魔法の混在するサバイバルシューティング系であり、タワーディフェンス系とも言える」
エルフらの顔が逆に歪んだ。
年長者っぽいのが、
『つまりゲームの中だと、言うのか?!』
傷を負えば血が噴き出し、肉が抉れ、強烈な痛覚に蝕まれる。
そのすべてが作り物と、一度は真剣に考えて。
改めてダークエルフは首を振った。
今のはナシで。
『いや、いやいや、信じられぬ』
「信じる信じないはそちらの勝手。こちら側ではそうなのだから仕方なくてで」
ま、そういう外は言い換えるにしても材料がない。
いや。
いや、待てよ。
「そちら側から見て」
疑問に思ったハナさんがエルフにボールを投げる。
会話のボールで、ソレが肝にも思えた。
ウナさんが静止しようと動いて、
「こちらはどう見えている?」
ダークエルフは躊躇するなく突き放すように。
『どう見えるって、そりゃ形容し難き化け物に見えるさ?』
おそらくはそれが襲撃してきた行動原理なのだろう。
◇
騎士王が得意の縄抜けに挑戦してた。
後ろ手に捕縛されてるだけで、ガウェイン卿の機転により『王は衆道を嗜まれている』ってイメージになった。
襲うのが男であれば監視は緩くなる。
《カエデも知らぬ仲ではなかったが、別の意図で動いているのであれば遊びに付き合わせるのも酷》
胸中でひとりごちて。
監房内を再び、見渡す。
抜け出る窓もなく床も完全に溶接された壱枚板。
で、見上げると通気口が。
《ふむ、不本意だが》
騎士王は脱獄した。
そして再び奔り出してた。
目的地は、とりま交易都市“ヘスペリデス”。




