- C 1178話 ポンコツ騎士王と装甲列車 3 -
ニュールブリンでトリスタン卿が下車すると、代わって第二の交渉役が乗車してきた。
こちらは列車旅を愉しむ為に、予約まで入れてた。
ホテルの一室のような特別な客室車は、攻撃の通らないセーフエリアにされてある。
で、その客車に当然のことのように。
アーサー卿が呼び出されてた――。
「っ、すぅー。俺は、何かヤりましたか?!」
女性4人組のご一行さま。
会社の同僚のような、かつての級友のような。
ちょー金持ちっぽいエレガントな品格の『モルゴース』女史。
ただの酒呑みな安っぽい品格の『グィネヴィア』さん。
オドオドしている姉妹もあるな。
明るみよりも壁際が落ち着くという『メルリヌス』に、姉と共に無理やり連れられた雰囲気の『ヴィヴィアン』嬢。
借りてきた猫みたいに落ち着きがない。
そんな凸凹な4人が、ホテルのようなひと間にあって。
「俺の帰還要請ってとこですか? まあ、生憎とですね...」
「いえ、帰ってこいとは言いませんよ。たまには息抜きだって必要です」
モルゴースさんが一定の理解を示す。
グィネヴィアさんのヤらかしにより、クランに亀裂を招いたので。
それぞれが、頭を増やす時期だと認識してた。
と、同時に。
「予約でいっぱいだったこの列車へ、乗客として滑り込ませた『あなた』の手腕に感謝しなくちゃいけませんもの。ねえ、わたくしの可愛い義妹たち?」
「おいおい手腕って、俺は何もシテないぜ?!」
いや従業員として採用された時からモルゴース女史の手駒なのだ。
彼女の手に掛かれば、リストの追加、或いは手配に差配も容易である。
「マジかよ、はっ」
「客車の防音でもAIに勘づかれるようなことはログに遺さないで貰えるかしら?」
痕跡は、自然と残すことにロマンがあるというのがプロ。
立つ鳥跡を濁さずってアレだ。
改竄の痕は一巡して見つかるのがベストである。
「へいへい。でも、なんだってここに」
先に。
この世界の美しさは、ゲームのプレイ中や探索の合間で見るよりも、乗客として何らかの乗り物から見た時の方が美しいと言われている。その中でも最上とされるのが、車窓からが格別だという評価があった。
それまで客として施設を使用するのは、あくまでも冒険者というロールの上だと思われてたけども。
どこの世界でも数寄者ってのがあって。
グルメ探求と同じ目線で車窓めぐりで一躍人気の配信者になった者もあった。
それ以降の装甲列車『機神豪』は兎に角、多忙な毎日を過ごしている。
「で、まず卿の感想から聞いてみましょうか?」
「へいへい」
気の乗らない返事だけど。
4人に敬意を払ってない訳じゃない。
とくに怒らせてはダメなモルゴース女史には特に普段以上のサービスを惜しまない。
「どう?」
「ゲーム内時間で11日前から、グラフィックに変更点がありました。唯一の入江、ひと月前に激しい戦闘があって禿山よろしく地肌むき出しの海岸線がありまして。そこから見える車窓の一部に、駆逐艦、フリゲートの艦隊群が、沈んでる艦隊の影からして『国連軍』のようでしたよ」
水平線に浮かぶ影と。
入江に打ち上げられた船の残骸。
島の1周がゲーム内で15日。
リアルだと1日かけて運行されている。
山あり、谷あり、廃墟ありの様々な景色に飽きないアクシデント――時々、AI列車探偵とミステリーツアーなんてのが催される。
長期滞在者向けのアトラクションであるんだけど。
まあ、それはいいか。