- C 1175話 円卓とポンコツ騎士王 5 -
「アーサー、戻らないのかい?」
客としてカウンターの席について。
明らかに知人以上の顔見知りを前に置く。
「飲む?」
コップ水をじっと見つめてた知人。
その頭の上から...
言葉堕ちてきた。
「なに?」
「――カウンターについたなら、先ずは注文だろ?」
ああ。
客が見上げると、いつもの騎士王じゃない彼がそこに。
奥の席に、手前のボックスへウインクを差し入れするアーサーがここに。
「変わり過ぎだろ?!」
「なにも変わってはいないさ。単に、自分の価値に今更ながらに気が付いた。まあ、それだけだな」
イケメンアバターに仕上げたんだ。
すべての素材を使って金にする。
いい性格だと思う。
「そっか...」
心配する己に諦めを感じつつ。
と、同時に嫉妬も感じて――「何か不自由なことは」
「ある!!」
言い終えてもいない即断。
一緒に出奔したガウェイン卿について問われるのかと身構えたのもつかの間。
「目薬が欲しい!!!」
切実のようだ。
◇
客は咳払いを残し。
「ガウェイン卿のことだが、な」
バーカウンターの内側から、斜に構えてコップを磨くだけのソレなのに。
もともと本職が役者という卿は、実に絵になる立ち姿だった。
もっとも。
ずっと立ち仕事も出来ないので、彼の背には椅子がある。
「ああ、カエデのトコに居るんだろ?」
酒場には情報が集まってくる。
ポンコツでも、魔術師の攻略法って講座に出ていれば身に付く。
ただ、ガウェイン卿は“考える葦”を止めたいと思っている人だ。
「騎士団のことは、俺もよく分からん」
「いあ、彼女が知ってるとは思えん。それに、お前に腕を引かれて出て行ってしまった方だからな。――魔術師と意見が割れるのは珍しい、やはり...アイテムをオークションで闇取引することが許せなかった、か?」
探るように突く。
高難易度のダンジョンにタイムアタックを仕掛け、周回での平均で極レア装備が確率的にまま、ある。
ゲーム攻略を純粋に楽しんでた、お騒がせな集団『聖櫃騎士団』だったが。
攻略には前のめりに楽しんでいる。
ただ、やり過ぎて極レア・アイテムが嵩張ってきた。
これの置き場で、まあ、意見が割れたのだ。
正統派を自他ともに演出している、自称、民草に優しい騎士王アーサー卿は、だ。
正規ルートでのオークションに掛けるべきだと主張した。
いたってまともな精神だ。
これに反する形で、モルドレッド卿の胸を揉みしだきながら魔術師が勃つ。
『勿体ない!! これはリアルマネー・トレードさせるべきだ!』
と、主張したのだ。
リアルマネートレード。
いわゆる非合法でグレーな取引方法、明確に規約で禁じている運営も少なくはない。
アイテムを公式に換金する方法もあるので。
そこはやはりグレーなところだ。
『私たちのサークル資金は、グィネヴィア先生の横領により...酒代に消えていた!!』
横領案件は、のちに指導者メルリヌスのお姉ちゃん、モルゴース女史により不問にされたけど。
お金が無いのは事実。
お茶菓子も買えないよ~って、モルゴースさんが嘆いてるとか。
で、ええかっこしいしたい魔術師がRMT宣言したという流れ。
「RTAの配信する為の... 為の資金稼ぎみたくなってたじゃねえか、最後は!!!!」
オークションには納得して付き合ってた。
ただ、目的が最初のソレも崇高かどうか不明だけども。
目先のところで挿げ変わったのが許せなくなった。
「なあ、どうしたらよかった? トリスタン卿」
鶏の被り物が揺れた気がした。