- C 1167話 奇襲と戦災孤児 1 -
監獄島から脱走したMPKクラン、チンギス飯”の行方がついに知れ渡る。
各地のギルドで話題に上がってたところだ。
「――どこだって?」
PKKクラン『サクセス☆レンジャー』に所属する連絡員が訪ねてきたところ。
雑用の煩雑さが目立ち、なんで連絡員しているのか、クランの人間捕まえても判然としない戦闘狂で。
少なくとも第一線から外されるような弱者でもない。
いあ、これ一人で町の警備兵だって相手にできる強者だ。
で、
ガラの悪い、連絡員がギルドの受付嬢を泣かすまで3秒前。
「もう勘弁してください」
受付嬢に代わり、泣かされたのは支部長さん。
40過ぎのおっさんが半べそになる。
「ヘスペリデスの冒険者ギルド出張所からですって言いましたよね? これ以上の情報はありませんよ、メンバーの大半はソレと判別するには困難なほど、ペットのエサに成り果て。唯一の生存者もトラウマによるMPマイナス値が恐ろしく、暫く着衣緊縛・開脚なんとかって、うなされている状態です」
事情を聴くには、汚染されたMP値を正常化させ。
何者かに支配されている状況から解放する処置が必要になる。
まあ、ここからでは何もできないのだけど。
いっそ、移送させようかって話もでた。
クランの大半は死亡判定が出ているので、おそらくはデスペナを食らって地下に潜伏したものと考えられる。
したがって、今、この生存者ってのが唯一の手掛かりなのだ。
先ずはどうやって脱出したのか。
次に、なぜ『大呪海』なる地にあったのか。
ついでに、賞金首との交戦記録についてだ。
後者はログ読め、カスって暴言が返ってきそうだけど。
ギルドにも配信の記録が残っていなかった。
意図的に消された可能性も、疑ってみたものの――そもそも論だ、MPK『チンギス飯』の戦闘記録配信、実況中継がタイムテーブルに無かった。
誰も、視聴していないって話で。
配信したと言い放った、クランすべてが喪失したのだ、忽然と。
マルとわたしたちが見つけなかったら、忘れ去られるような小さな事件だったろう。
あれ、ヤダ。
寒気がしてくるじゃない?
◇
エサ子さんと似た風貌の幼女は今日も元気だ。
――拾ってきて「この子はボクの妹にします!」マルのように時々、ボクっ子な口調になるときがある。
意識しているときと、無意識もあるので。
実のところもともとそういう気質なのではと思う。
ほら、大財閥のお嬢様という世間向けには、ボクっ子は需要はあっても軽んじられてしまう。
八ッ橋家は、ね。
アレでもスジ界隈ではヤバい人たちってレベルで認識されてるし。
陸華堂家は正当な武家。
後者も要所でガラの悪さが目立つもんだけども、
なんだろうねえ育ちがいいのかな? どこかに品が混じって見える時がある。
「PKK界隈でもトップクランの『サクセス☆レンジャー』ってのが、方々のギルドを回ってエルフの情報を集めてるって話なんだけど? なんなんよ、あのヒリついた感じのは??!」
“ライン・オブ・デス”の街にも、その連絡員が訪問してた。
赤いカエデの陸上戦艦を睨んでいったって話も、すっかり噂話としてNPCの会話に出ている。
「PKK=治安維持じゃないからね、ただのプレイスタイル。と、割り切って言えるのはせいぜい、何も背負わない私たちのような『傭兵』ってトコでしょ」
「ちがうの?!」
って声も上がる。
うんうん。
PKKのトップ10に入るクランは、大規模戦というお祭りに代理指揮という形で戦術面、戦略面で意見を投じることができる権利が与えられる。つまり、人類サイドにおいての将帥めいた立場が約束されているって話。
で、こんな重責を纏うのだから。
スタンスも『善よりの善』になっていく。
これは必然。