- C 1159話 凶悪なエルフが出たぞ! 4 -
島の中央域には王国という国家がある。
どこにあるのか、どんな国なのか、どんな政体で運営しているのか全くの謎だというのがアナウンスされていて――『王国兵』として選び抜かれたプレイヤーにも箝口令が敷かれてある。要するにネタバレはご法度ですよ、という運営からの達しなのだ。
とは、いえ。
プレイヤーでも『大尉』まで昇進できた者も数は少なく。
また、これから向かう『交易都市』より内陸へは渡れないようになってた。
それでも箝口令が敷かれているのは。
NPCたちが囁く文言に特徴があるからだと、されている。
あとは――
人類サイドにとても、友好的な獣人たちの口の葉から『王国』の存在について表面的なことが語られる時がある。多種族共栄圏と言う理想を追い求める連合王国とか、連邦王国とも訳される。
謎の島大陸の大半を掌中に治め、運営してきたという自負。
アナウンスでは、たかだか数百年。
数世紀しか経っていない人類サイド。
彼らが額に汗を乗せて切り開いたでも、グレーなトコはまだ多く残っている。
例えば、島の奥地へ続く濃厚な緑地の世界『大呪海』。
多くの翻訳家を介して伝えられた伝言ゲームだったので、結果的にこんなネーミングになったけど。
一応、片言で聞くかぎり。
まるで呪いの方から侵入者を拒むような意を感じられ、正しき道も邪なる悪意で閉ざされる。
王国へ通じる最短にして、もっとも正規から外れた道である。
ゆえに『大呪海』という。
◇
さて。
交易都市“ヘスペリデス”。
王国サイドでの国境にある城塞都市だ。
攻略サイトの解説文を鵜呑みにするならば、人口は数万人規模で軍属。
主要種族はダークエルフで、5の氏族が共同運営しているとされた。
「氏族って」
「ごく簡単に略すと、一族郎党かな」
マルは胸のポケットからシガーケースめいたもんを取り出して。
すーっと嗅いだら、再び胸のポケットにしまってた。
「ソレ?」
「あ、ああ、これチョコ。食べはしないけど、嗅ぐと落ち着くんだよね」
言われて一つ分けて欲しいというのは。
マルの目と交差する。
「なに? 欲しいの。苦いから嗅ぐだけにしておいて方がいいよ」
シガーケースから、武骨な形の細い棒が移動した。
わたしのポケットティッシュの中へ。
マルに従って鼻下ですんすん嗅ぐようにしてた。
が、これを蒼が興味本位に口にくわえ――鎮静効果のある代物だとしても、蒼の目に届くところに置いてしまってた、わたしの不徳の致すところ。
彼女が黒い棒を咥えて、火を点して。
涼しそうな表情で煙で輪っかを作って見せていた。
えー!!!
「天しゃん?! これいい葉ですね!!」
◇
「マルぅー!!」
彼女も火を点す直前で、葉巻カッターで断ち切ったところだ。
火種は足元で踏みにじった。
「は、ははいはい。何事で?!」
チョコフレーバーな葉巻だったことが判明。
肺に入れずに口の中で吹かして楽しむものだという。
「交易都市へ行くのに、商品となるような物が無いのでは門前払い喰らうと思ってさ――」
マルも逞しい。
上陸後にくすねておいた葉巻やお酒、缶詰とかバトルレーションも売れるかな?
そんな殊勝な考えになったのは氏族会議でのこと。
くすねてた直後では、
隊員たちと楽しむものだったという。
いや、そもそもメディックボットで飲めるのかという問題が。
「問題ないよ」
そっか。
匂いも嗅げたのだから。
いあ、違うか?
もう、いいか。