- C 1156話 凶悪なエルフが出たぞ! 1 -
メディックボットに戻ってきての初動、やらかしたのは。
マル並みの指揮官になると期待されてた――わたしだ。
護身用に所持してたアサルトが暴発。
ごめん。
暴発だとマルには伝えたけど、あっちが撃ってきたんで狙撃した。
ボットに組み込まれた手ブレ補正がマジ凄くて。
ワンショットキル。
しかも600メートルは離れてた。
◇
掲示板に走る情報。
ハナたちも戻ってきた国境の駐屯村でそのチラシに目を向けてた。
『凶悪なエルフ出現、農民クラン“みたらし団栗”全滅』という報道。
MPKからでさえ、
「あんな人畜無害なカモをよくも」と。
カウンターに肘をついて、
ハナさんは頬づてに空虚を見る。
「なあ、これ」
証言内容がついてるのも珍しい。
クランと同行してた用心棒プレイヤーの者が応えたものとされ。
その好戦的すぎるエルフの神業が記載された。
「600メートル以遠からの精密射撃。遭遇から、攻撃に至るまでの刹那で即、パーティの目を潰したあたりは戦い慣れている、としか言えぬ気がするんだがな」
今までも、小競り合いは起きてた。
まあ、そういうゲーム性だからダークエルフ達はこの世界のモブキャラだ。
資源ユニットでもいうか。
初心者が相手するには狡賢く、攻撃も痛いのばかり選択してくるが。
倒せない相手ではない。
ただ、対人戦もあると考慮すると。
やっぱり出会いたくないエネミーNPCと言えた。
「『赤いカエデ』とこにも似た距離で狙撃できるの居るんじゃないか?」
酒場の店主がバターエールを注ぎ直す。
ひとことふたこと呟きながら、
「ああ、うん。普段は狙撃なんて仕事はないもんだから、厨房に城を構えて守勢に入ってるんだ」
世間話だけど。
狙撃手はウナさんか。
「しばらくは籠城するだろうなあ」
今は、足りない食料の補充に外へ出ている。
駐屯村“ライン・オブ・デス”に横付けされた陸上戦艦――
どう見ても場違いな巨大な拠点で。
ソロ、パーティのPKたちも、セーフティエリアからシルエットだけを拝んでた。
ああ、あれが噂に高い『赤いカエデ』の拠点かってな具合だろう。
この武力。
お宝だぜ、ヒャッハー!!!
って叫べる奴がいたら、ネジが何個飛んでるんだろう。
「――で、実のところ、どうよ?」
600メートル以遠。
1000メートルを超える極大射程ほど現実的な数字で、精密射撃は難しくはない。
物理法則も似た背景のゲーム内では。
まあちょっと異常な、か。
エルフの姿を捉えたのは、用心棒たちだろう。
警戒アラートが鳴り、身構えたのも。
恐らくは威嚇射撃もしている筈だ。
その結果が、この惨状とみる。
「先に目を潰し、即座に盾も潰してるとこ見ると。うん、こちらの戦術が身に染みて分かってる個体だな。しかもエルフが使用してた弾丸は、こちらの魔法盾をすり抜けて」
酒場の主人も、
「装甲帯を穿ってきたって話だな?!」
フレームの中で一番強度のある部位を装甲帯と呼んでる。
アーマーベルトっていうとまんまだけど。
とにかく防御の要みたいなトコ。
「好戦的ではなく、凶悪か。確かに、凶悪だよね」