- C 1146話 蒼と薄い本のはなし 1 -
――唐突だが、学校に前倒しで長期の特別休学を申し込んでた、わたしたちの下に。
【おしらせ】と言う名のメールが届く。
今時、紙で配達されたもので珍しかったとのことで。
二葉家は、まあ。
わたし一人しかいないから、郵便受けに刺さったまま放置。
陸華堂の蒼の方では、大切に保管されてたようだけども、この度。
蒼の親戚と言う子が。
方々でわたしらを探して回って遂に、ついに...。
届けられる運びとなった。
蒼を結局、道具として見れなかった宗主代行さま。
婆さんだが。
彼女が【おしらせ】の封書を確認したという。
蒼は、実夫に実母がある家庭の子ではあるけども、彼女はババさまが預かってる子だからな。
親代理として中身くらい見るだろう。
「はっ、夏季休校だって?!」
吐き捨てた。
いあ、マジで紙の封書ごとゴミ箱に行きかけた。
拾ったのは嫡流家ご当主の景親さん。
スリムダンディのイケオジさま。
風貌は先の通り、薄い青緑の山水画のような柄が描かれた和装に。
狂言師か日本舞踊のお師匠さんっぽさ。
とてもとても、武闘家には見えやしない。
「おっと、夏休みか。なら、」
そう。
赤道直下を往く人工島に夏休みの概念があるのは、イベントだけのせい。
本質は日本人なので、カレンダー通りの行事はすべてやっておきたい。
たとえ、本国の列島も。
四季なんて半世紀前にどこかへ置いてきたかのような、状況だとしても。
初夏のような暑さで正月を迎え。
梅雨か、秋雨かの長雨に晒される七夕に。
真冬に上がる花火大会――凍えるようなというか、凍てつくブリザードも吹雪くようなので。
花火大会は富津沖、50キロメートルで打ち上げられている。
隅田川で上げたら、強風で煽られ、新築のマンションを直撃爆破したためだ。
テロに見えたってはなし。
で、春の記憶もおぼろげに初夏のようなで、1年が過ぎていくという。
「やっと、やっとだよ」
なんかボロボロにやつれた嫡流家の三男坊がある。
マルが道場の玄関口で迎え入れてた。
「粗茶です」
ウナさんが、カタカタ震える盆で湯を出した。
茶葉は缶の中の粉を適宜投入する。
好みがあるので、淹れないことにした、司馬家の作法のようなものだ。
ウナさんもこの扱いを受けたことがある。
「マジで粗茶ですね?」
喧嘩売ってんのかって雰囲気だよね、分かる。
よーくわかる。
「お好みは個人差に寄りますから」
「いやいや。ここは薄かろうと、濃かろうと... っ、先ずは茶でも水でも大差なくてですね」
存じてます。
腹で嗤い、表てに修羅を出するマルの姿。
おい、それは逆だ、逆。
三男もやや引きつりながら、
「俺は客だ。招待ばれもしない客だろうが、それでも訪問客だぞ!!」
この無冠ものってな威圧感が肌に刺さる殺気。
マルと、この三男坊は相性最悪だな。
封書を置いたらさっさと去ね。
って感情がまるだし出し。
「なあ、時に。っ、その、蒼の副業だが、新刊とか続刊のはなしをだな。聞いてないか?」
滑り込ませた話題に耳が立つ。
な、なんと?!