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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 大戦斧の冒険者
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-187話 建国準備 ②-

「七席が居るとすると、」

 エサ子の曇った表情を察した、ニーズヘッグが別の情報を切り出した。

「密偵の掴んだ情報を精査しますと、西欧戦線は私たちが居た世界とは、違った形で終息したようです」

 興味深い話だね――と、エサ子が食らいついてきた。

 ニーズヘッグが方々に送っている密偵は、ドッペルゲンガーという影の魔物だ。

 異形種族が人間社会に溶け込む場合に用いる、ユニークスキル・外見変容スキンの別名もドッペルゲンガーと呼ぶことがある。

 特性を指しているので、種族名を連呼している訳ではない。

 そのドッペルゲンガーらは、人間サイドと悪魔サイドに送り込まれ、情報収集の任務に従事している。

 因みに、彼らは雇われている。

 成功報酬制による金貨1枚。

 その金貨は、ニーズヘッグの宝物庫に眠るドラゴンの金で造られている。

「何ですか唐突に? その手」

 エサ子が差し出す手のひろを見下ろしている。

 小首を傾げて、下先を覗かせながらぎこちなく微笑む。

 孫娘がお爺ちゃんにおねだりしている風景だ。

「ちょうだい」


「えっと...」


「だ、か、ら...金貨」

 ニーズヘッグの報告している内容には金貨の話は出なかった。

「将軍が私にお小遣いをくださるのが、普通のような気がしますが?」


「ボクのニーズヘッグがケチになったーああああ」

 駄々をこねると、いいことがある。

 そんなダメなことを教えるのは、決まってマルだ。

 そうして思惑通りに、ニーズヘッグの爺さんが孫を可愛がるまでが流れにある。

「なんか合点がいきませんが...」

 と、言って革袋の財布から、神々しく輝く金貨を1枚取り出した。

 この金貨は魔法力を帯びている。

 持っているだけでも幸運が訪れ、願い事も叶えてくれる。

 一度、世に出れば争いの火種となって、生物に独占欲という災いを増長させるという。


 まあ、要するに囁くどこかの指輪みたいなものだ。

 心の片隅に黒い炎を燃え上がらせて、善なる魂を焼いて糧にする悪魔の実。

 悪魔にとっては至高の宝となり、恩恵はずっと大きい。

 上納された品にドラゴンの金貨があれば、魔王でさえ小躍りするという代物。

 エサ子もまた、目を輝かせている。

「む...将軍には毒にしかならない様子」

 取り出した金貨を再びしまい込んだ。

 貰えると思っていたエサ子の憤慨は、相当なものだった。

 が、チャームでもかかったように我欲にまみれているように見えた。

 いつものエサ子ではない。

「全く、またメロンパンを拾い食いしたんですか?」

 と、ニーズヘッグは、袖を捲り上げながらしれっと、彼女をディスった。

 エサ子の好物は、メロンパンだ。

 特にマルティアで造られたパンには目がない。

 パン工房の裏に回って、売れ残りのパンを貰って食べていた程だ。ケチではない、意地汚いだけの子だ。

 まあ、お小遣いが少ないという愚痴は“ザボンの騎士”でよく聞く話だ。

「では、触診御免!!」

 肘まで巻き上げた素手を伸ばして、エサ子の胸を掴みに行った。

 腕を叩き堕とす抵抗を掻い潜っての優しくボディタッチ。

 ソフトにそして大胆に、ニーズヘッグの腕はエサ子の胎内へ消えた。

「ちょ、」

 彼女瞳の色がいつもの濃い碧色から橙色へと変わる。

 エサ子の中に居る者の色だ。

「将軍閣下、本当の意味でお懐かしゅうございます」


「こういう怪しいなりで会話を楽しむつもりは無かったのだがな...そろそろ、解放して貰えないか? 爺にレイプされそうな少女という構図のようなのだが...」

 二人の視線が交わっている。

 唇の距離も近いし、エサ子の吐息がニーズヘッグの頬に当たる。

「まあ、確かにそうですね」


「しかし何故、人間ベースがそれで、閣下が中に居られるのです?」


「少し長い話になるのだがな。まあ、アレだ...少女のお願いを聞き届けた結果という事にしておこう」


「話す気は無いのですね?」

 袖を元の位置に戻すと、何事も無かったように座り直している。

「今は無い。彼女の意志を尊重してな...」


「その少女は」


「ああ、未だ居るよ...ボクが魂を預かっている。天使あいつらは、問答無用で回収しちゃうからね...

この娘がもう一度、自分の足で歩きたくなったら、身体を返すつもりなんだよ、まあ、そういう契約だと思ってもいいかな」

 机上の鉛筆を指で弾いている。

「で、あの金貨を何に使われる予定なのですか?」


「彼女の魂に火を入れてみたかった...でも、ダメだと分かった」


「ええ、物欲が増しましたね...貴方が入っているのに、抜け殻が強く人間らしい反応を示した」


「ああ、これではダメだ。もっと他の手段を探さないと...」


「時に、ひとつ別の情報を仕入れました。言いそびれただけなんですがね」

 紙袋のメロンパンは残りひとつ。

 ニーズヘッグがエサ子に『どうぞ』と譲ったので、台所からミルクを再注入して戻って来た。

「この世界も、どんどん戦火が広がっていくね」


「どこも似た道を通るんですよ。一生、今いる地域から出なければ、その周辺事情しか分からないまま、死んでいきますが、世界がそんなに狭い訳じゃありません。地域が違っても凡そ、どこででも似た事で、争いなどが起こるものです。熱いか寒いかなら、水や資源の問題で...緩やかで温暖でも、食料や人口などの問題で人は、禁忌を犯す。そうやって、どこでも似た争いが大小かの違いだけで必ず起きています」


「まあ、幸い、私たちのいた世界よりかは、その大小の内、小さな火種ばかりなので初動で刈り取れば、大事になりそうもない。そんなところでしょうか...」


「で、仕入れた情報ってのは?」


「初動の話ですよ、隣接する州の話ですが...やや不穏な動きを捉えました。末っ子の皇子が以前にあったと聞きましたので、何かよからぬ事をしないか監視していたところ...」


「表舞台に――」


「出てきました。支援者は、前王の実弟まで捉える事が出来ましたが、近々、南エルザン王国と宣言するようです」

 ニーズヘッグは、エサ子のカップで、エサ子のミルクを飲む。

 まあ、口をつける程度なのだが。

 口ひげにミルク痕が残っている。

「あの、阿呆が...」

 彼女は、マグカップをあおって最後のミルクを飲み干した。

 鼻の下にミルクをたくわえると、舌先で唇を舐める。

「この情報は、姉上に報告しておく」


「御意」


「爺、ミルク...買い足しておいてね」


「何故?」


「ボクの少し、呑んだでしょ」

 エサ子は、工房用エプロンを着用したまま部屋を足早に出て行った。

「ミルクとは可愛らしい...が、悪戯のし甲斐もある。さて、少しウイスキーを入れたら、如何ほどに乱れるのやら...楽しみも、湧きますねぇ」

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