- C 1133話 そこは紛争地帯でした 3 -
合衆国の机上演習でも。
アヴァロン・クエストの事前情報くらいは網羅されてて、一部の高級軍人たちには『仮の一般常識』として、サイコロを振る前の細やかな足枷が掛けられていた。実際に演習に参加してた、上陸作戦に投入される海兵隊、陸軍、空軍の兵士たちには伏せられた形で。
高度制限を超えると――。
謎の撃墜アラートが鳴ってたんだけど、今。
ヘリコプターの操縦士たちが身をもって体感しているトコだ。
《――っ、くぅ...ダメだ、2千メートルも上がれない!!!》
ヘッドセットから苦痛のような絞られた声が聞こえてくる。
浜辺から少し内陸に上がったところに橋頭保が組み上げられ、即席とはいえ立派な陣地が作られて。
固まる首脳陣は想定してたように、項垂れる。
「事前の常識と同じことになるとは」
相当に偉い人たちの声が。
わたしたちの下にも聞こえてくる。
ボットの機能に、超高性能な『耳』が内蔵されてて。
盗み聞きしてた訳じゃなく。
こう、音を拾っただけというか。
ま、そういうとこで。
他にも――「劣化ウラン弾を使ってることは、参加国に伝えなくてよろしいのでしょうか?」――って、なセリフも聞き取れてしまってた。まあ、わたしたち“新経済圏”の方は特殊なメディックボットを使用しているので元から生身でもない。
とはいえ。
こう、なんというか、負い目。
いやあなんか違うか。
◇
覚醒したマルは隊の指揮に戻って。
海兵隊の軒にひと間借りしたのち、離脱するのかと思ったら――「コレ、補給物資ですよね? ええ、ですよね、ですよね。はいはい、戦車兵さんのトコ運んで置きますね!」と、下働きみたいなことを始めてた。
いやさ、他の隊員も彼女に倣って。
合衆国のお手伝いに励む。
おっと、本国のレンジャー部隊も発見!
「ちょ、状況がつかめないんだけど」
落ち着いた頃合いを見計らって。
この町の何でも屋的、状況の説明を求めてみた。
こっちは、さ。
ゲーム内からアプローチを試みている、エリザさんたちと合流できるかを探る必要があると思うんだけど。
「んー、そういう事もおいおいだね」
オイオイ?!
「おいおい、だよ」
いや。
どういう。
「うちらの(頭上に、人差し指を向ける)上を飛んでる人たちの報告を貰っておきたいじゃん? んふぅー分からないかあ、いあ、理解に苦慮してるかな。こっちもさ、手持ちの携行用、紙飛行機を飛ばして独自に情報収集した方がいい訳なんだけど...」
蒼が追従して、
「物資も温存する方向性?!」
「そ、その通り。こっちはボットに食料が必要ないことで、積載できるギリギリまで弾薬とメディカルキットなんかを持って臨んでるんだけど。この浜辺で怖いのは、情報が秘匿されることなんだ。ボット使用者には専用のチャンネルを開けて貰ってる」
あたしの表情を見て、マルが苦笑して。
額をぺちぺち。
「プレイべートないちゃらぶが各国に筒抜けになることは無いよ。ボクの隊長機から各協力国の隊長機に繋げてて、任意にそれぞれが仕入れた情報とすり合わせようって、事前の申し合わせが図られてる。仮に裏切りがあっても...ま、出し抜いたところで...」
落ち着いたマルの余裕はどこから。
彼女は鼻で嗤いながら、
「ここ紛争地のど真ん中だからさ、近いうちに痛い目を見ると思うんだよね」