- C 1123話 霧の向こうで 2 -
マルの指導の下、
蒼は、上陸作戦に向けての訓練に参加することに。
いあ...
実のところ、このキャンプには、わたしも同行している。
「戦場では何があるか分からない! 先ずはバディと共に息の合った生活のリズムを掴むように!!」
言ってることは正しいのだろう。
だが、だがだよ。
上下、撚れた茜色のジャージ姿に、ボサボサの頭、気怠そうな趣のサンダル娘には。
なんちゅうか、言われたくない。
おまえが、しゃんとしろ!!
これは訓練に参加している、すべての戦闘員総意である。
たまらず、
みゅーって鳴いた、マル。
「天ちゃん、悪い子。腕立て伏せ~」
えーなんでわたしだけ?!
「嫌だよ!」
蒼が袖を引いて、
「これマルちゃんなりの地獄の特訓だよ」
そんな訳はない。
これただの気分だろ。
いや、まず。
それ地獄の特訓とかでもないだろ!! 蒼は毒され過ぎだ。
◇
人工島の中に演習場とかはない、スペース的にだ。
じゃあどこで? ってなるのが普通だけど。
これは人工島・自衛隊でも同じ条件で。
そういう時に科学者はこう言った『仮想空間があるじゃないですか!』と。
フルダイブ型VRによる本格的な実戦訓練。
死ぬほど痛い経験も、死ぬほど苦しい経験も、みんな一切合切仕込まれた特別訓練。
マルが特別用意したプログラムじゃなくて。
傭兵団リーパーズの最終採用試験で使用されたもん。
マル自身、これのカリキュラムを受けて小隊長になったという。
マジか。
「おお、いい反応だね」
VRの向こう側に居るマルは相変わらずにチビだが、なんていうか貫禄?
いあ、雰囲気が違う。
こう歴戦の~とか、そんな言葉が板につく雰囲気のだ。
「やだなあ、じろじろ見て」
「そりゃ、ボスがしゃんとしてるかでしょ?」
小隊員らが口々にした言葉“しゃんとしてる”。
そうだ、それ。
「こんな空間だけど、痛覚はちゃんとあるからね。しゃんとしない方が不味いでしょ、指揮官として或いは...教官としても、他人を導かないといけないんだから」
マルらしからぬセリフだよ、それは。
「痛覚があるとは?」
蒼が問うた。
ああそうだ、痛覚があるってのは。
「言葉通りなんだよね。ナイフの先で指を刺してみて、切ってみてもいい。今の状況は、スタート地点だから傷は残らないけど、傷みは数倍薄めてあるけど感覚として記憶できるはずだから」
言われても切りつけられないのは人間といえ。
そこを躊躇なくしちゃうのは、蒼の凄さか、或いはわたしよりも死に頓着か。
「いたた...」
「ね、ちょっとひっかかれたくらいのチクリ感あるでしょ? 刃物はさ、紙とかと違ってスッと切れるものは少ないんだよね。特に軍用のは切り口が鈍いんだ」
何でって、わたしが口にしてた。
天使によって消してもらった手首の傷は深いのもあったけど、わりとサクッと入った気がした。
「切り口の断面がキレイなら、切れた両サイドをふたたび重ねわせればくっつくじゃん?! それじゃあ傷つけた意味がない。ボクらは傷口が治しやすいよう熟達な料理人じゃないんだよ」
刺身だって、ギザギザのカットにする。
醤油が絡みやすくする為だが。
「で、ここで痛覚があるのは実戦で死なない為に必要だからだ!!」
小隊員らはしっかりと頷いてた。
ちょっと覚悟が足りなかったのは、どうも...
わたし達だったっぽい。




