- C 1121話 ぷろろーぐ -
プルーの空が、ダークブルーに変わるギリギリの上空。
薄いはずの酸素。
寒いはずの気温。
感じるはずの風。
そのどれもが、ない。
「ようこそ、最新のAR体験へ」
マルが素っ裸なんですけどー!!!!!
◇
いきなり大声を挙げてしまったけど。
マルも含め、わたしも素っ裸にみえる雰囲気の真っ白なボディで宙に浮いてた。
「これはね事前にスキャンされた、パーソナルアバターなんだよね。それこそ事前にオーダーすれば、小動物から大型の捕食動物、或いは絶滅した生物にもなれるけど。結局ね、スリルとか臨場なんてのは生身に近くないと味わえないんだって――」
マルの解説が長すぎた。
話の端々に刺さる棘には気が付いてたけど。
そられもスルーして。
とにかくも。
絶景ともいえる地球の“今”を見ることができる。
面白い体験だ。
「でも、これが新しいAR?」
「お、いいねえ。何を今更と思ってくれたね?」
いや、そこまでじゃない。
ただ、ここどこ?くらいの認識だ。
眼下には渦を巻く雲の塊のようなものが見える。
ものすごい嵐のように。
「ここは北極海。リアルな北極海の直上にあるんだ、ボクらは。身体は当然、個々人の部屋かネット環境のある、喫茶店に置いてきていると思うけど。意識だけなら人工島を遠く離れた場所に送ることができるようになった、これがダイブ型VRの拡張現実モード。そして...」
マルは眼下の句を指さす。
「あれが調査対象の島大陸」
いたって真面目に告げたマル。
いつもはふざけてるところがあるんだけども。
その時は、不思議と頼もしくも感じた。
◇
意識が、例の喫茶店・個室に戻ってくる。
マルのマイルームではなく奥の座敷のようなトコ。
置物に見えた座敷童のような...
ちびっ子な童が退屈そうに待ってたのは。
なんだろ、新鮮。
いや、不安。
でもないなあ、もやっとしてる。
「衛星が見せるリアルタイムの状況から推測して?」
唐突に難しい話へ。
待ってた童がマルへ振ったとこだ。
彼女も険しい表情のまま。
「島への上陸部隊は、ボクと天ちゃんに蒼と、数名にする。蒼は少し訓練すれば、コツを掴んでボクの助手くらいは動けるようになると思うし。エサちゃんはハナ姉に任せて、ゲーム側からアプローチしてもらう予定」
ん? ん?? なになに。
なんか勝手に話が進んで。
「その子が」
「二葉 天心さん。いずれは傭兵の看板エースになる予定の~ 予定の... 予定の何がいい?」
決めとけよ。
わたしが知るわけないだろ。
「なんか威勢のいい娘ってのは分かった」
童は座りなおして。
とはいっても、正座してた足を崩して胡坐になり。
小さな足に柔らかそうなうち太ももに目が張り付く。
「宇奈さんだ」
うなぎサンド?
「この子、腹減ってるのかな」
「いや、単に耳垢詰まってるんだと思うよ」
たぶん前途多難だと思うんだ。