- C 1116話 天啓がありまして 1 -
朝、ビビッと電気が走った。
と、同時に急に胸が苦しくなって――ああ、ついにお迎えが来たかなって思った。
なんてことはない。
あたしの谷間に頭部がある。
これは、くんくん。
匂いからして蒼のだ。
彼女からは、
「天心しゃんの、汗の匂いしゅきぃ~」
だったか?!
慌てたね。
慌てたよ。
あ、汗の匂い、えー!?
これがなかなか離れてくれないんだよ。
無意識に寝てる人間の所業じゃない。
がっちり背中まで腕を伸ばして、ホールドした状態でだ。
あたしの間に顔を埋めてるんだから。
あ、今、舐められた気がする。
「えへへ... 蒼、天心しゃんの味もしゅきでしゅ」
目が、
目が、
目がー!!!
◇
――悪い夢を見た。
わたしの部屋に引っ越してきた蒼の朝は早い。
仲が認められて2週間足らずで、彼女が引っ越してきたのだ。
それこそ。
「聞いてくださいよ! 天心しゃん!!」
いつの間にか、さんが砕けて溶けてた。
「蒼にも天使が付きました!!!」
見せてくれたのは、
『それ、悪魔ですよ?』
だ。
色欲の堕天使。
天使に違いないけど、キューピッドが闇落ちしたヤツ。
わたしの巫女としての能力と、付いてる天使の御威光ってヤツだな。
これで払い清い給えて、憑き物落としでキレイにしてやった。
「うわっ!! おっぱい大きくもない蒼の肩がきゅーにすっと、軽くなりました!!」
ま、そうだろうねえ。
「――で、そうです。啓示をうけたのです」
ほー。
信じてないですねーで、蒼が頬を膨らませて。
妙に可愛い姿も見せるようになって。
「しばらくしたら、引っ越してきます」
が、あの騒がしい日から2週間後のこと。
例の紳士な御当主様が、手配した形で宗家の部屋から引き払うことが出来て。
いったん実家に戻ってから、ここに来た。
「もうすぐ、朝ごはんデキますからねえ~」
キッチンに立っている蒼のこえ。
締め切ってた雨戸がすっかり全開で。
眩しい陽光を和らげるよう、レース風のカーテンが風に揺れてる――ちょ、何、これ天国?!
『天国の閾値、天心さんに掛かると随分、低くなりませんか?』
久しぶりの天使だ。
前向きに生きることに向けた、例のプログラムの最終報告へ行ってたとかだったが。
『蒼さんの手料理ですね?』
「なんだしんみりして? これエピローグじゃないよ」
まだなって、わたしは天使に告げる。
『まあ、遠いとも言えませんよね?』
言うなあ。
「わたしはリストカッターなの、いつ何処で絶望してしまうか分からないんだぞ?」
蒼を悲しませたくはないけど。
わたしも悪魔に憑かれる時はあるって話だ。
『そうですね、まあその話は... 蒼さんの味噌汁を頂いた後でも――』