- C 1113話 唐突ですが、3 -
「えっと...」
わたしは、ふたりの言い合いの中に割り込むように入り。
蒼の手を恋人つなぎに取って。
「唐突ですが、蒼さんと正式なお付き合いを...お願いします」
こらこら、わたし。
火に油を注ぐという諺がだね。
でも、まあ。
嘘なんて一言も言ってない。
少し前に。
蒼から告白られてて、その返事を返していなかったので。
この場を借りて。
「ふしゅ~」
言葉にならない擬音めいた音色で、蒼が溶けた。
うわ~あああああ!!!
蒼が溶けたー!!!
◇
さて一発触発って雰囲気なところに、陸華堂の嫡流家現御当主様が嫡子とその、三男さんまで連れて、そう。わたしたちの膝突き合わせてたレクリエーション・ルームにご登場してくれた。
普段見ない御当主さま。
蒼のような神童でさえ、奥の書院に入ることは許されないから。
こんなダンディな紳士に触れたことが無い。
「あ、筆が」
おっと蒼の悪い癖が。
これはBLネタに目覚めた予感。
「みなさん、ごきげんよう」
柔らかく甘い調子で場の空気が和んだ。
武門の棟梁というイメージからはだいぶかけ離れ。
そう、狂言師とか日本舞踊の先生のような、艶のある立ち姿――和装の似合う小さな腰。
『ああ、これはエロいですねえ』
久しぶりの天使。
お、こら鼻の下、伸びきってるって。
「おいでくださいまして、誠にありがとうございます!! 御当主さま」
海賊ねこの着ぐるみが謝辞。
直角に曲がった礼を尽くしてて、その甘い声主はコロコロと笑ってた。
おいおい。
なんだよ、この、この、この...
天国かよ!?
『いいですね、この当主、天国に連れ帰りたいです!!』
天使まで物騒だよ。
わたしの感想にかぶせるなよ。
「んんん? なんだろ、今、殺されそうになった?」
首のあたりに指を這わせて。
「景親!! 何故、ここに」
長老さまの驚きようを、忘れてた。
席ごと、仰け反り、立ち上がりかけて膝くだけになった感覚。
頬が朱に染まったかと思えば、溶けかかって。
今、ぷんすこしてるトコ。
「ああ、母さん。その様子だと、蒼ちゃんの進学とか...(優しく微笑み)聞いた? お友達と同じトコに行くらしいんでね、私は応援したいと思ってるんだけど?」
小首を傾げかけて。
和装の襟口を直している。
「おやおや?」
連れてきた息子たちに当主の視線が落ちた。
「なんか雰囲気、違くないかい?」
「いえ、父上の勘違いなど」
長老が溜まらず割り込み、
「蒼の友が誰だか知ってるんかい、お前は?!!」
美魔女の吐いた飛沫が当主へ。
ああ、なんてこと。
オーラがその雫さえも跳ね除けて――
「うん(満面の笑顔)片葉の娘だろ? 私は彼女が5つだった頃に会っているからね。よーく知っているよ、ヤらされてるとはいえ立派な巫女さんだったねえ」
天使降ろしが得意で。
脂ぎった感じの中途に半端ハゲたおっさんキューピッドを侍らせていた。
いや、記憶にないけど。
そういう印象だったらしい。
「お、おま、え?!」
長老さまの勢いが急にトーンダウン。