- C 1111話 唐突ですが、1 -
ストーンゴーレムの配慮により、
陸華堂家の選抜班が組まれ、しぶしぶだが蒼もこれに入って――人工島の裏社会へと遠征する。
先のマフィア騒動から。
治安の方は、傭兵リーパーズってのが仕切るようになり。
地下闘技場の稼ぎの何割かが街の運営に充てられると、ゴミ溜めのような雰囲気が一掃された。
いや、したんだ。
無許可で上陸している傭兵たちの遊び場が。
人工島に出来上がって。
この繁栄ぶりを支えてた。
それを作り上げたのも傭兵って、政府のみなさん仕事してますか?
「はい、ちゅーもーく!! 陸華堂のみなさんはひと月、いや遅くとも、み月までには闘技場で稼げるソコソコの拳闘士に仕上がって貰います!」
ストーンゴーレムはいつもの着ぐるみのままだが。
ぱんぱんと、手を叩いて武術家たちの注目を浴びてた。
怒らせたらどっちが強いのだろう。
蒼はそんな風に考えてたが。
ここまで――
闘技場と併設された訓練施設。
多くのブロックに分かれて、治療院やら歓楽街にただの宿まである。
連れ込んでも『壁が薄い』って隣から苦情が来ることのない造りっていうと、それは天国ですかって。
「拳闘士諸君には気持ちよく戦って貰いたいからね!!」
ストーンゴーレムの説。
いや、闘技場の外も確かに“街”だった。
かつてのマフィア以上に恐れられた傭兵団の仕切りに、差配。
それはすれ違った、ガラの悪いお兄さんたちの態度からも垣間見れたし。
そもそもプロゲーマーとして登録されてる、コメ氏に会釈してくるゴロツキとは如何に。
蒼は肌感覚で、コメ氏が強いって知っているけど......
「――っと、聞いてますか蒼さん?」
「え、は、はい?!」
上の空だったか。
「蒼さんは見学組なので戦う必要はありません」
「え?」
やっぱり聞いてなかった。
◇
蒼は、気分晴れやかに。
清々しく負けた。
武門の家に生まれて、神童だの天才だのと持て囃されて、考える暇なく頂に上り詰めたと思ってた。
けど。
けど...上には上が。
あたりまえだけど。
ゲーマーに技でも、腕っぷしでも、場数でも負けた。
で、だ。
なぜか闘技場の中にあるレクリエーション・ルームに、だ。
長老さまと対峙した形で、座らされてた。
「やあ、どうもどうも」
また、ふざけた着ぐるみで再登場するコメ氏。
巨石人じゃなく、海賊ねこ風。
「あ、これ? 次のテストで採用されるアバターなんだよね! 浮沈のサム、戦艦ビスマルクや空母アークロイヤルを渡り歩いたとされる...ま、いいか。こりゃ、脱線してしまったねえ」
空気がにわかに良くない方向に向いたので。
コメ氏はなくなく話を切って。
この場に、ババさまと膝つきあわしている状況を説明しだす。
「まあ、あれだ。ボクの依頼は...」
「蒼を宗家に迎え入れるためであろう! あんなにボコボコにしおって!!!」
憤ってる、憤ってる。
着ぐるみのコメは鼻を鳴らして。
「ふふ、まったく。嫡流家もご苦労が絶えない...蒼さんは、そっち側に向かない子だよ。立ち会って理解したし、才が全くないわけじゃないけど今のところ、急激に伸びることも無いかな、残念ながら」
何をって恫喝してるけど。
分かった風にとも。
まあ、彼らはメンツがある。
潰されたままなのだけど。
当の本人、蒼はきょとん「ほえ~」って顔なんだよなあ。