- C 1110話 長老どもの賭けのタネ 5 -
「じゃあ、これでこの娘は戦闘継続が出来ないけど...ギャラは貰えるんかな?」
宗家代理は年甲斐もなく吠えてるようだけど。
嫡流家の次期当主の方は、もっと冷静に。
「蒼が立ち上がらなければな」
そっか。
負けず嫌いがここで。
ゴーレムは不意打ちの裏拳をひらりと躱し。
四角い顔を拭うようなしぐさを見せてた。
「気絶はさせなかったけど、立ち上がれるとは」
手加減し過ぎたかなと。
彼女を再び逆なでした。
『お、驚かせるな蒼。お前がこの程度の』
「お言葉ですけどね! 宗家さま、この人めちゃくちゃ強いんですよ!!!!」
ジンジンと響く背中を見せる。
肩越しから立てた親指で紅葉を指して。
「打ち込まれた正面に傷跡なく、背中に手形残すとか。常人じゃ」
「だから言ったろ? 陸華堂のお前たちは、先代当主がどれほどかは知らないけども...生真面目すぎるきらいがある。いや、素直過ぎてこんなアホみたいな技にも対応できない、違うか?」
挑発じゃなくて。
ハメ技にもちかい、ただの足払い。
腰を落として重心がぶれにくくさせている達人でさえ、掬われる絶妙な針孔。
極めつけは、衝撃の重い打撃技。
内臓にダメージが抜けるまでの精緻さ。
蒼の前に立つ、
(なんか片目だけ、きらーんって光ってる...
腕を組んだ着ぐるみのプロゲーマーが予想以上に大きく見える瞬間。
『陸華堂をバカにしおって!!』
宗家は、蒼が家に戻ることを切に願った。
そのための噛ませ犬である。
が、嫡流家の次期当主の青年は違った。
蒼を自由に解き放ちたかった。
家に縛られない人生が歩めるように――陸華堂では、その娘は天才に見えた。
ただそれだけの話。
宗家の爺さんがたまたま熱心に手解きしてた娘が眩しかった。
そういうことだ。
才が無いわけじゃない。
「さあ、立つなら続きをしようか?」
その気力があれば。
◇
なんでそんな着ぐるみのままで動ける?
視界が狭いだろうに。
常軌を逸した暑さじゃないのか。
薄着になった自身の不甲斐なさを痛感してる。
まあ、一方のストーンゴーレムも。
余裕は実のところ無くなってた。
《あんな細い体に、どんなスタミナだよ? ちょっち、っすー舐めプはボクだったか》
着ぐるみの中は特製のスペースがある。
静穏性のファンはMAXで動いてるし、3本目のスタミナドリンクがもう少しで空になる。
おしっこは、まあ。
履いてるオムツに即吸収。
ただ、あと何回デキるかが問題で。
「イキが上がったの、わた、蒼だけ、ですか?!!」
か細くなった声。
テンションは始める前から低くて沸点は高めだった。
スピーカー越しで吠えてた長老も、疲れたようだ。
今なら、ドーム内は本当にふたりっきり。
「ボクも疲労くらいはある。生身でヤってたら、そのアザくらいじゃ済まないってのは」
分かるよねという流れ。
重い着ぐるみで俊敏に動くのだ、獣のように動かれてはたまらない。
また、肩の可動域に制限があるから、拳に乗る攻撃が弱められている点も加減がデキている。
「ええ、は、はい」
「上には上がある。そもそも君たちが送って寄越した、ボット...あれさ、弱すぎてうちの班のスパーリング相手になってないんだって!! ボク、ちゃんと要望書、提出したよね? 改善しないのは良くない事だと思うんだけど」
ちゃんと分かってる。