- C 1109話 長老どもの賭けのタネ 4 -
とうとつにだが...
格闘ゲームには、ハメ技というものがある。
技の難易度から見ると、それは初級の小攻撃、与ダメも弱と体力ゲージが1ミリも削れると『ラッキー』なんて声が出そうな単発のもの。しかし、地味なモーションの中に隠れた良さがあって、まず第一に“弱攻撃”にはコンボ、連続技へスムーズに移れるようノーモーションであることが見受けられる。
構えナシの“西派”のような。
動きに一切の無駄がなく、流れる清流のような所作。
大技や必殺技には大ダメージに至る専用のモーションと、アニメーションに、溜めが必要になる。
これは陸華堂兵法でも同じだ。
ただの正拳突きでさえ、打ち終えた残心の美しさで――
技の完成度が違うという。
◇
トリッキーなハメ技も突然に。
「ローキック!!」
あー。
ストーンゴーレムは技名をわざと口走る。
ちょっとイラっとくる。
姿勢を低くした足払いなんだけど。
こう、ふわっと足元を掬われたような不安定さがある。
おっととと、と――後ずさりながら着地しようと踵から踏みに行ったら――「ローキック!!」
まただ。
狙ってたように掬われて。
とことこ、と。
どんどん中心から壁に向かって後ずさる。
外野が煩い。
分かってるんだよ、分かってる。
このまま後ろに下がることは出来ない。
半円ドームだってそんなに大きな施設じゃないし、そもそも、ゴーレムのは単なる足払いなのだ。
だが、足元。
特に着地するか否かの極めて不安定な状態から、再び掬われるのだ。
尻もちをつけば動きが止まるけど。
顔側面に回し蹴りでも貰えば失神は免れないし。
かといって予想以上の大きく後ろに仰け反った場合の着地後、利き足は靭帯が怖いことになりそうだ。
最悪歩けなくなるかも。
『抜け出さぬか、愚か者が!!』
それでも陸華堂の技を修めた者か、だって。
宗家代理のババ様の声がよく通ると思ったら、スピーカー越し出しだった件。
「ぬ、抜け出せてたら...くっ」
「うん抜け出せないよね。踵から掬われてるから前に向かって飛ぶなんて芸当も難しい...それこそ、空気でも蹴るようなトリッキーな動きが出来ないといけない。えっと、これは...“東派”が得意とする空中戦だったかな?」
いちいちイライラさせることを言う。
蒼はどの流派も見たことが無い。
言われてもピンとこない。
ストーンゴーレムは足払いを掛けた後に、低い姿勢のまま瞬歩がごとく距離を詰めて。
蒼の谷間やや下へ衝打を打ち込んでた。
衝撃は薄い身体を突き抜けて、彼女の背中にモミジが残ってた。
下着姿なので背後に回るとよくよく腫れて見える。
「ぐはっ」
蒼ーっ!!って声がババアから出た。
あれは当代随一の後継者に向けたものか、或いは...。