- C 1106話 長老どもの賭けのタネ 1 -
プロゲーマー・ストーンゴーレムのスカウトは、名指しだった。
陸華堂の嫡流家自らが動き、ゲーマーの溜まり場として有名な“ネットサウナ”に降臨したところから、このスカウト話が始まる――。
◇
ストーンゴーレムの着ぐるみは、マル・コメのマイブームで。
ノラゴルゴーン・クエスト15のクローズド・ベータ・テストに参加した折り、スポンサーからプレゼントされたもの。着ぐるみの内部は、形状記憶の特殊合金フレームで形作られ、全部で5点のクーラントファンが内蔵されてた。
300ミリリットルの小型水筒が装備され。
遮蔽モードに入れば、寝袋としても活用できる点も機能的だ。
そんな余りにも目立つ姿は――
溜まり場でも歩く広告塔なんて揶揄されたもので。
贈った側も安い宣伝費という具合に割り切ってたようだ。
「マジかよ?! アバターまで巨石人か」
テスター同士が仮想空間で遭遇。
右拳をこつんと、当てて...
ぱっと手を開いて「ぷしゅ~」。
双方で大笑いだ。
「白豚だって、それ、この間のテストの景品だろ?」
300人くらいしか参加しなかったレアなネットワークテスト。
白豚と名乗る暑苦しいミリオタの青年? 少年?
口調からは同年代にも感じられるが、
詮索はご法度、それが界隈のローカルルール。
景品はランダムボックスというガチャ形式が用いられて、
ひし形の箱っぽい戦車のアバタースキンが手元に残ったという。
ま、どう見ても段ボールにしか見えないけど。
「これぞかの有名なる『マークⅠ』でしてな」
ゴーレムが遮蔽モードに入ったのにも気が付かずに、白豚の講義は続く。
◇
「――かくして、マークⅠは...って、聞いてないじゃねえスか!! コメ氏」
憤慨する段ボール、いやもとい、マークⅠ・白豚。
ぐるんぐるんと首をまわして、深いため息を吐く。
「拙者の不覚」
「お、理解早くて助かる」
遮蔽モードを解き、マルが離席から戻ってきた。
立ち話で1時間。
いや、よくもまあひし形の戦車ひとつでネタが続くものだよ。
その知識はどこか他所で捧げるといいのではと。
「あ、いや。こんなトコで立ち話も...でしたな」
どうした?
「白豚?」
ミリネタほどの勢いを失って、ソワソワし始めてる。
最初は、ストーンゴーレムの貴重な時間を奪ったと、怯んだ様子もあったけど。
少し様子が違うような。
「貴殿に、連絡を取りたいという御仁がありましてな?」
「は?」
白豚はマル・コメと仲がいい。
これは周知だ。
白豚を見つけ出すなら、“戦車教導団”へ行けとアドバイスされる。
ミリオタ、つまりは軍事ネタの愛好家たちが巣窟の強烈なメイド喫茶があって――いや、深くかかわると、碌なことにならない。ストーンゴーレムも上辺だけならお付き合いが可能なレベルで、重い方のとなると躊躇した。
「自作沼と似た匂いのある泥沼にですねえ、清流がごとく一般人が単身で来られてたんで」
「そこまで卑下しなくてもいいんじゃない?」
自虐ネタ。
動かないと思ってた砲身を上下にカクつかせて、けたけたと微笑。
ああ、嗤ってたんか~
という流れ。
「で、誰?」
「陸華堂の家の者ですよ。ほら、傭兵たちに怪しい玩具を」
言いかけて。
周りをさりげなく見渡す。
どこに目があり耳があるか――なんて怖いことを告げてた。