- C 1103話 蒼がしたいこと 3 -
蒼にもやりたいことは、いっぱい、いっぱーいある。
先ずはいっときこそ断念させられた青春を謳歌するという、学校生活。
今のところはそれ以上の収穫を得て。
わたしと蒼はラブラブに発展中である――もっとも、ホテルまで行ったら、だ。
裸婦画のモデルにされて。
ま、その、発展めいたものはない。
少し残念ではあるが。
それもふたりの呪縛が解かれたら、エリザさんの口利きで島の南区に小さなコテージを探してもらう手筈が整っている。平屋の2LDKで、砂浜が見えて遊泳禁止の海がある生活に夢想する日々。
それまでの合言葉ふだが『一緒に棲もうね!』だ。
ちょっと気恥ずかしいけども。
今のところは、その細やかな生活こそ、わたしたちの――
いあ、蒼のやりたいことの最上位レベルといったところか。
とはいえ。
宗家こと陸華堂の家に邪魔されなければ、の話なのだ。
◇
宗家滞在4日目。
実戦向けの施設が『使用中』になっているという珍事に遭遇した。
半円ドームの搬入口に、例の半年先に生まれたから“兄貴”だと、自称する嫡流家三男があった。
やや不満そうに腕を組み。
斜に構えた立ち姿で、じっと室内のスパーリングに見入ってた。
「どったの?」
蒼の気配には数百メートル先から気が付いてたけど。
ドーム内の事案の方が気になってた。
「プロゲーマーって知ってるか?」
何を唐突に。
蒼が傾げてる。
プロゲーマーっても個人名称じゃないから、吐いて捨てるほどある。
こんなご時世だ。
野球選手や、フットボール選手に並ぶ人気の職業で、小遣いを稼ぐのが目的なら、分母はもっと多くなる。
てかキリがない。
「ストーンゴーレムの着ぐるみを着たふざけたやつが、朝からメディックボット相手にスパーリングしているんだよ。軍用のと比較すれば、精緻に人に近く作られててシリコンベースの肌感覚や、滑らかな関節可動域なんて、人間と大差ないってのに」
何言ってんだと、蒼は思った。
ストーンゴーレムの着ぐるみを着てたゲーマーと言えば、例のダンジョンで出会った。
いけ好かないことに。
天心を口説いてきた、マル・コメっていう覆面ゲーマー。
かなり稼いでるって話だが。
「今、蒼モデル・プロトタイプに3勝している」
耳を疑った。
蒼の目がかっと開いて、兄貴を突き飛ばし、戸口に立つ。
半年前にトレースさせた蒼自身が打撃戦で負けっぱなしだった。
ゲーマーを招聘したのは、嫡流家の長男。
彼の主催する格闘ゲームで知り合ったというので、武神だとつけ上がっている小娘の鼻っ柱を折る目的で迎えてた――おっと、スパーリングを見学してた長男と目が合った――「そんなトコで盗み見するとは、傍流の娘は礼儀も知らんと見える?!」
あちゃー。
今ので蒼に火が付いたかも。