- C 1100話 わたしがしたいコト 5 -
『もぎゃあああああああああああああああああああああ』
蒼の絶叫が平屋の巨大な敷地に建つ館中に響いたとこだ。
世界や宇宙を体現する庭に、湖のような場所に浮かぶような神殿造りの変な家。
道場はふたつあって――
蒼らのようなタイプは高弟。
印可を受けた子があっても、師匠と弟子の関係は変わらない。
そんな蒼は半年に一度、これは約束のようなもので絶対ではないけども――実家?の陸華堂本家に顔を出す決まりがある。今となっては以前使ってた部屋が客室になってしまったので、彼女も食客のように離れの民宿みたいなトコに宿泊していた。
そんな離れから響く声。
◇
周辺の警備や、騒音の類は気にしなくていい。
何せ、何もない辺鄙なところに屋敷がある。
高く聳える塀の上にはネズミ返しのような屋根があり、好奇心かあるいは盗みにでも入ろうとすれば。
例の軍用モデルに仕上げたドローンボットがわらわらと集まってくる。
これと対峙して無事で済むような犯罪者もそうはいないだろうし。
蒼も門限が間に合わないと意を決して、塀を越えたら――5体にフルボッコにされた怖いエピソードを語ってくれた。蒼をして『あれは理不尽だ!!』というんだけども、門限が絶対なら守るほかはない。
だって正門さえ超えれば襲ってこないのだから。
『そうは言っても、天心さんと初のデートでしたし。一緒に水着と、下着を選びに行ったじゃありませんか! その帰りにちょっと蒼にだけじっくり見せてくれるっていうんでホテルに寄ったし、あれをなかったことになんかデキないじゃないですかー!!!!!』
ファミリアの通信機能で、彼女は告げた。
絶叫の後の細やかな言い訳。
で。
そう。
で、それは起きた――襖を勢いよくこう、スパーンって。
よく滑るよう蝋でも塗ったのかって具合に襖が開かれ、カウンターで勢いよく閉じたわけだが。
これはコントですか、ああ、違いますよね。
「うあああ!! びっくりしたっ!!!」
例の半年先生まれの自称兄がの悲鳴。
開け開いたと思ったら、勢い余って自力で閉まってしまった。
タネが分かれば大したことはない。
「今、凄いことが」
「知るかー!!!」
てか、ノックも無しに開けるな。
ファミリア越しにだけど、蒼の実家では愉快なイベントが発生りているようで。
『取り込み中なら』
気を利かしてみたら、
『いやいや、今から自称・兄を殺すから待ってて』
物騒な言葉を聞いたような気がした。
◆
わたしが願うことは。
たぶんすごく贅沢なようで、細やかな希望なんだと思う。
大好きな子と。
一緒に棲みたいって、そんなとこだと思う。
それが、今は... 蒼なんだと。