- C 1097話 わたしがしたいコト 2 -
「誰が、誰の“お兄ちゃん”だって?」
「蒼の」
両腕の痺れを抜くように。
しきりに腕を振って。
「冗談、たかが半年ちがいで兄貴ヅラすんな! 蒼から見たらアシスタントだわ」
「何の?」
「コミック制作と、コミケの売り子さんの、だわ」
それは余りに辛辣。
◇
まあ。
五十歩ほど譲る気があるかは脇に置いといて。
腫れた腕を診るのは、半年先に生まれた縁戚者の方。
救急箱を傍らに置いて。
蒼の腕に昔ながらの塗り薬に、油紙で封して包帯が巻かれる。
「やせ我慢しても何もいい事はないぞ?」
口を尖らせる少女の姿は同い年だからよく見ている。
見せてくれた彼女らしい光景の一つ。
「長老だろ? 本土から“千本松原”を呼び寄せたのは」
操作盤に戻ってボットのステータスに視線を向ける徒。
「ま、うん。一応は、こちらの方にも言い訳くらいはあるんだよ。(蒼は明らかに不機嫌そうに頬を膨らませてる)蒼の疑似人格は運用に耐えうる模範的な実戦データを吸い上げて、着実に成長しているんだけど」
「だけど?」
後ろ髪をかき上げ、
仰いでみたり、明後日を見たりしつつ、
「他のモデルと比較するに...」
言葉に詰まる。
蒼勇樹は偽名である――陸華堂家の末席に縁ある者。
人工島では珍しい武門の家。
陸華堂兵法というと、人工島ではかなり有名である。
同家に7日間の集中合宿に参加すると、精悍な人間として別人になるという。
ま、都市伝説だけど。
「蒼のは癖らしい癖が無いことが、癖だって評価で」
ふくれてた蒼が、食いつくように。
「誰の評価?」
「リーパーズからのだよ」
あいつらかって、顔を覆ってる。
スパーリング用ボットプログラムが今のところ、陸華堂の収入現になっていて。
蒼は12歳で免許皆伝、相伝の極意まで到達した神童だった。
武術の神様に愛されている。
それが、長老にして宗家の口癖で。
呪いのように縛ってきた言葉だ。
拳ダコを隠して、ペンダコに置き換えた努力と、家から離れて自由に生きたいと考える。
それが蒼の夢だ。
目下試行錯誤中。
◆
わたしは、寝室に戻ってきて。
賞品で貰った“体験型ファミリア”を起動した――部屋はいつか住みたいと思っている『海と砂浜が見える』細やかな平屋。キッチン、小さなリビングに、ふたりでは手狭な寝室と、ユニットバス。
そんな夢のような部屋に、蒼がいた。
やや、複雑そうな表情で。
オブジェクトじゃなくて、本人で。
彼女も何となくファミリアを起動させたのだ。
ふたりの理想的な家で、待ち合わせ。
「や、やあ」
ちょっと気まずい。
えっと、なんて言えば。