- C 1095話 蒼のこと 5 -
部室では何も判明はしなかったのだ。
しかも、唯一ともいえる情報源の奪取まで、わたしらは蒼を止めることが出来なかった。
「エサちゃん、或いはハナ姉でも居れば... いあ、なんか揉めそうな気がする」
マルがぽつぽつ呟き。
わたしは、あたしを抱え込んでた。
「どうしたんです?」
『どうったの? 天心さん』
天使も、マルも怪訝な表情だ。
奥の院からとその中間に漂う、ふたつの視線。
「あ、ちょい! 天使さん見えません。は、翼がが邪魔で見えませんよ~!!!」
マルの怒号。
「あ、いあ。何でもないけど、今“揉む”って聞こえて...(上目使いに)防衛本能が」
ふたり?
ふたりか、本当に?!
天使と、マルから呆れた『ああ』が漏れた。
「蒼さんは強いでしょ? 指にペンタコ作って、同人を描いているのも確かなんでしょうけども、デッキブラシで人を殴り倒すほどの度胸は、尋常じゃないと思いませんか? そ、直接的な彼女の素性は分からなくとも、鎌をかけて――例えばです。サクサクと経験が溜まりやすい環境の中でも、常に万全な状態であることに努める人間というのは慎重かつ冷静な兵士であると言えます。心当たりがあるでしょう」
マルのまっすぐな視線が、臍に刺さってる気がする。
いあ、床に座りこけたままではダメだと思って立ち上がったの不味かったか。
ただでさえ低身長なマルの視線が腹に刺さってる。
まあ、チクチクする感じかな。
「心当たりというか、あのダンジョンでは...わたしが足手まといだったんだよ。たぶん、蒼が気遣ってくれて歩幅を合わせて...くれたと思うんだよね」
彼我戦力差を正確にに導き出すのは難しい。
大抵の場合は、チームの平均ではなく、総体的なの平均を求める。
多少差異があっても、飛び抜けてる者が補えばいいと考えるだろう。
軍隊が必死に訓練するのはこの、デコボコを埋めるためにあるから。
「そういうこと。蒼は無意識ではなく考えをもって蒼と天ちゃんの差異を出来るだけ小さくした。それこそ場数を踏ませ、対人から対エネミーでも周囲の状況判断に目が、頭が追いつくようにしてた」
見てきたようなことを言う。
だけど言われてみれば、そんな感じもする。
◇◆◇
板間に大型の繭型装置が運び込まれた。
展開するまでに1時間はゆうに掛かる――。
それまでの間に、演者は再び“型”稽古で汗を流してた。
軽い運動なのでスパーリング前に息が上がるようなことはない。
そういうペース配分は、日頃から常に意識して整えていある。
「どういうモードでいく?」
同門の徒が問う。
「いつかの傭兵で」
メディックボットが医療用に宛がわれる以前。
いくつかのモデルが戦場に投入されたことがある。
当時は“ドローンポッド”って呼称されたプロジェクト名で、演者自らがトレーサーとして関与してた。
お蔭で半年も学校に通えず、結果的に自主退学する羽目になった。
これが宗家の命令。
「モード、傭兵っと。っ、いあ。どっちの傭兵がいい?」
「白兵特化タイプ、リベンジしたい!!」
鼻息が荒い。
まあ、これ以上準備運動してたら欲求不満になりそうだ。
「白兵ね... ナイフ使いの“死神”と、ジャングルで出没する“小鬼”がある」
じゃ、まずは前者で、と。
ナイフの“死神”との戦闘、遭遇データから疑似人格が作られた。
消息を絶つ2、3年前のデータだけど、本人でも苦戦するほどの出来栄えの筈だ。
なにせ、演者としても引き分けることが多い。
「しゃーっ!!!」




