- C 1093話 蒼のこと 3 -
本土の入出記録とかまあ、存在証明がないのは医療機関のメディックボットだったからとして。
人工島の蒼はどうなんだ。
エリザさん調べだと、高校1年の後半辺りから突然、湧いたという。
幽霊みたいな感覚だ。
同人誌。
そう、同人作家の~ ペンネームか。
確か、なんだっけ。
思い出せ、わたし。
『三ツ葉葵ですね!』
え、おい、天使。
なに、それ?!
『日本史に出てくる、ああ、もう。“せんぼん”さんも仰ってましたが、授業はちゃんと受けてください』
天使キレやすいな。
カルシウム不足か。
『天使の栄養は、このわっかと翼の美しさ維持に、です』
そうか、そうか。
ん?
天使の栄養は、
わたしは天使の豊かに育ったスイカに目を向けて。
そっと口を噤むことにした。
これは言わんほうがいいな。
◇
さて。
「じゃあさ、じゃあ! 蒼は病人だった!!」
これだろ的に推理したよ。
当たってるだろってドヤった顔になってた。
間違いない。
「惜しくもないですが、惜しい。天心さん蒼の上に、そそ跨ってください」
あ、はい。
これでいい?
スカートを摘まんで、軽く持ち上げて。
彼女を跨ぐ、わたし――馬鹿だよなあ、それ、ご褒美じゃん。
「今晩のオカズをありがとう」
「いえ、どう...いたし...」
奥の畳部屋のマルが止まってる。
左右に揺れてた幼女が、だ。
「天ちゃん、何してんの!!」
「ああ、恥ずかしさのあまりにそこで座ったら!!」
蒼を尻で圧し潰しかねない。
慌てて、後ずさり後方へバックステップしてた。
千本松原からは殺気の乗った視線。
蒼からは舌打ちが聞こえた。
もうー、みんな怖い~
ほつれた緊張の糸を張り直す作業。
こういうのはエリザさんか、マルのお姉さんの仕事だと思うけど。
「エサちゃんはバイトなので」
再び、メトロノームのようにマルが揺れだした。
これはリズムを刻んでるに違いない。
「違います! これは癖です」
あら、ごめんなさい。
「えっと、じゃあ。まさかだけど?! 片葉の嫡流御三卿がひとつ、三葉の子、かなあ?」
親戚のすべてなんか、わたしでも知らない。
三葉と四葉は養子を迎えたって話だし。
嫡流家の存在意義は、母系の血統を次代に残す必要がある。
婿養子はその選択の一つで。
ま、わたしも何れは... 婿を取らねばならない。
「蒼のペンネーム調べたの? 天心さん。愛されてる、愛を感じる嬉しい!!」
若干、恋に燃えてる子があるけど。
マルからは『おそらくは違うでしょうね』と。
ん、なんとなく分かってた。
一族の会合で、見る同い年の子と言えば、男子臭のヤバイ、男だけだ。
『汚ギャル臭もしますよ、天心さんからは』
黙っとけ、天使。




