- C 1092話 蒼のこと 2 -
蒼は仰向けになってた姿勢で、鼻にかかる微笑みを浮かべた。
「――蒼の同姓同名も考えたけど。入国した者はひとりで記録が曖昧ってのが気にかかる」
マルが下唇を軽くかむ。
口の端に八重歯が見えて、小動物みたいな雰囲気がある。
「千本松原みたいな、トラブル。未だ、あるかな?」
蒼の方は『ご想像にお任せします』なんて意味深なセリフを吐いてた。
まあ、本土の話があるのだから。
当然、転校生だろとは理解も納得もする。
「本土にも記録が無いと言ったら、どうします?」
マルが真剣すぎる。
目の座った幼女らしからぬ表情。
左右に揺れる女の子。
いあ、なんだろう? 悪寒が。
「マルちゃんたち何処まで調べてる?」
仰向けの蒼もちょっと怖いと思ったけど。
その愛くるしい瞳が、わたしを見てくれてる。
「んー。まあ、無いかも。ぶっちゃけた話をすれば、ね。蒼は人工島から出たことはないんよ」
おお、ファンタジー。
アホな単語で支配された感じがした。
◇
この場合は、
おお、ファンタスティック~。
でもないか。
「医療用ボット・システム、ですか?」
め、でぃっく?
「メディックボット。没入型VR技術とドローン技術の究極融合と言えば、わりと簡単に想像し易くなりますか? 遠隔地から生体データが埋め込まれたアバターを手足のように操作しているわけです。まあ、基本はロボットなので常人以上の筋力も発揮します」
マルがなぜ詳しいのか。
彼女たちの裏稼業が開発に関わっているからだ。
傭兵ってのは、紛争地の有無に関係なく、需要がある仕事らしい。
「地球の反対側から依頼があるってのは名も腕も知れた世界でよくあることです。ひと昔前ならば、報酬次第で断ってましたが...こっちも商売なのでクライアントの要望にはなるべく応えるようにしてるんです」
マルみたいな愛玩動物が仕事の話をしてる。
『意外?!』
久しぶりの天使。
でもまあ、意外。
『天使も知ってたけど、目の当たりにすると意外だよね』
「ああ、知ってるのか。あ!! ここに居るのは本人だから」
蒼が蒼っぽくない雰囲気に。
言葉にしづらいけど、いつものぢゃない。
『蒼も猫被ってたんでしょう』
「あれは素じゃないよ、マルって子に併せて互いにぷにっとした、腹を弄りあってる。今は、やられてる方だけど次第に蒼のペースに戻して... マルの臍の周りをじんわり攻めていくぜ!!」
すっかり冷めた粗茶に口を濯ぐ、千本松原。
マウントを取り返す?!
この妙な姿勢の。
マルは左右に揺れ動き、胡坐をかいてる。
蒼は仰向けで天井っつうか、わたしの足を嗅ごうとしてる。
足をひっこめると、ひっこめた方へ転がってくる感じだが。
そろそろ後が無い気もする。