- C 1086話 かつては、1 -
人を殺めていないのなら、二葉 天心は動じない。
「マジ?」
ボーイッシュちゃんが問うてきた。
「マジ。どうせ流れ的に蒼が雄たけびでも挙げて、デッキブラシ振り回して並み居る暴漢どもを殴り回ったってんなら、せいぜい骨折、気絶にバット振り抜き半殺しってトコでしょ。うんうん、ついさっきも似たもん見たから気にしなーい、気にしない」
言うて、報復はあるだろう。
トドメを刺さなかったによる、お礼参りってやつだ。
そこで考えられるのが。
暴漢どものバックの存在か?
本土の方ならヤクザか。
ガキの子守なんてするかなあ。
「あの時点ではバックは無かったんですよ」
でも、彼女は来た。
蒼を探して。
なら、つぎこそ。
ボーイッシュの角縁メガネっ子は小さく息を呑む。
「今はヤバいのつきました。それで、みんなが... チームを卒業した連中も今、いる仲間もすべて病院送りにされて――」
息の詰まるような。
ん? 殺気???
わたしは、ボーイッシュちゃんと蒼の間に立っている。
そう挟まれて、サンドイッチの状態だ。
「で? 千本松原はどっちの、だ!!!」
あたしの下に回る腕。
そこが身の中で一番細い部分で。
背中がぴたりと密着した瞬間だ。
「ほんと、二葉って失礼なひとですね!!」
あー。
マルに謝らなければ。
この娘の方がもっと“すとーん”だった。
「あらら」
蒼は分かってたんだ。
だから、わたしからこの娘を遠ざけるように仕向けてた。
かつての友人たちを手に掛けたのは、彼女だってことに。
「そうやって欲しいものを手に入れてたもんなあ、千本松原!!」
「知ってなんですか?」
知ってて放置した。
蒼にとっては然程、重要じゃなかった。
千本松原が自作自演で巻き起こす喧嘩や策略も、楽しいイベントでしかなかったし。
憂さ晴らしにちょうど良かった。
まあ、ストレス発散には。
「夢中になれるものが無い、ならでしたっけ?!」
こいつもか。
重いなあ。
蒼の動きをけん制するための、わたし。
この子の手が、
あたしの下側に伸びて、
触れるか否かの手前で止まる。
「蒼はこれ、大事ですよね?!」
対面の蒼から嘶きのような声が漏れる。
いあ、蒼の周囲が歪むほどの瘴気も、か?
『蒼さん悪魔でも飼ってるんですかね? めっちゃ周囲が歪んでみえますよ』
天使も老眼めいた目で白黒させてるし。
これヤバイですよと叫んでる。
言われなくとも。
そりゃまあ、怒るだろ。
「揉んじゃいますよ~ あれ? 蒼は未だですか」
こらこらボーイッシュちゃん、焚きつけなさんな。
盾にして隠れてるからいいが。
わたしは今、蒼のバーサーカーぶりをだね。
目の当たりにしてるんだよ。
誰か、助けてー!!!