- C 1081話 天秤のゆくえ 1 -
レイド戦のMVPは、手堅く手傷を負わせていたパーティが持って行って...
会場を変な意味で沸かせたペアには、ストーンゴーレムから体験版“ファミリア”が贈呈された。
これで節度のある健全な遊びをお願いねっていう意が込められてて。
『もう、鼻血が止まりません。ボクに輸血をお願いできますか? その“ラブポーション”で』
会場から笑いと怒号が噴出。
バニーちゃんの唇は俺のだーとか。
そういう怒号である。
「いろいろ拗らせた人、多そう」
わたしのトホホに反して、
「蒼は天心さんを護る騎士になるです!」
うん、ありがとう。
悪気はないのだ、悪気は。
楽屋に戻って――『更衣室』と書かれてあった運動部の部屋のよう。
ロッカーが並んでちょっと汗ばんだ香りがする。
酸っぱいとは言えないが。
女の子特有のアレ。
化粧っけあるっぽい。
「探したよ、蒼」
唐突の声音。
芯があって、ややトーンが低く、喉仏も感じる。
うーん。
「ここ、女子更衣室ですが?」
わたしも突っ込まなくてもいいのに。
その時は、なんとなく。
◇
にらみ合う、角縁メガネのボーイッシュ。
司馬丸恵のようにどちらが背か分からないほどのすとーん、さ。
「失礼な、ヤツ!! こんなのが今のパートナーか?」
かちーんってきた。
なんかこう、差し歯をコツコツ鳴らすような感覚で、かちーんって。
わたしがそう感じたのだから。
蒼も似た感情が噴出していて。
眉間に物凄く深い溝のしわが寄ってたっぽい。
「天ちゃーん!」
ちゃーすなノリで場を読まない子が入室。
マルちゃんが来た。
「お、お客さんとも... マジ、3、ぴ、ピー?!」
ちがうよ、ちがうから。
も~何言っちゃってるの、この子は。
「――マルさん、見て頂きました? さっきの」
蒼の方はスイッチが切り替わるように。
マルを認識すると、彼女の方へ。
完全なスルーか、無視か。
「無視すんな、こっち見ろよ!! 蒼」
角縁メガネのボーイッシュが吠えてた。
無視され続けられると、なんか気の毒に。
「天心さん、ステイです」
え?
「ステイです」
えー。
「ステイ」
あー、はい。
腰のすぐ横をぱんぱん叩いて、わたしに自重を促す。
そんな躾けを受けた覚えもないのに。
素直に従うと、
「天心さんは素直ですね~」
撫でられまして。
えっと。
この低トーンボイスのボーイッシュは、更衣室に残されて。
わたしたちは...
その部屋を後にした。
着替える必要がないのに『更衣室』を選んで入った理由。
丁度、いい密室だったから。
『蒼って、肉食系だよね』
天使が揶揄ってくる。