- C 1076話 文化際・ダンジョントラベラーズ 6 -
ARによる視覚の改ざんってのは、実際に着てもいないのにその気になるようで。
首の後ろに装着した“ファミリア”って装置を取り外せば、元のジャージ姿に戻る。
装置のスイッチをOFFにしても。
だけど、まあ、目のやり場に困りつつもだ。
なんとなく人は誘惑に負ける生き物のようで――
『そうそう、そうして誘惑に負けた者の末路は悲惨ですよ~』
また余計な茶々を入れてくれる。
天使の言葉というよりも、悪魔のささやきのような気がしないでもない。
こいつの~
『でも、天使に唆されて外に出て。出会っちゃった運命の人、こればっかりは否定もできないでしょ?! そしてめくるめく冒険のような出来事も、これからの天心を愉快にしてくれる財産ですよ!!!』
ああ。
確かに間違いはないと思う。
そこだけは激しく同意しよう。
◇
“ファミリア”にインストールさせた装備品は、蒼がアイテム化させた彼女の創作だ。
わたしのあたしな部分も推して図ったような着心地で。
うーん、いつ計測たんだっけ。
「似合ってますよ!」
耳元で蒼の声音にドキッとさせられた。
「あ、ありがとう」
うにゃああ。
マジ、泣いていい?!
『なんで泣くんですか』
天使の声より、わたしの心臓がやばい。
こう動悸が。
火事だーって叫びながら、早鐘を打ってるような。
そんな感覚で。
手が、震えてきた。
「蒼も俄然、やる気が出てきました!! 天心さん行きますよー!!!!」
鼻息が聞こえてきそうなシーンだが。
彼女のやる気とわたしの気恥ずかしさがごちゃ混ぜになって。
わたし達は10階建ての塔へと挑んだわけだ。
◆
塔の中では、ソロから最大定員6人のパーティが複数展開してた。
あっちこっちから詠唱が聞こえてくる。
他のパーティの攻撃で、他者が攻撃されることはないけど。
悪意を持って排除することは可能だ。
フレンドファイヤではなく、プレイヤーキラーとして。
で、いっちょ試してみますかってのが毎年。
何故だか一定の割合で生まれることがあるのも、こういうダンジョン名物になっている。
派手なエフェクト、
派手な効果音に、
派手な戦闘シーン、
派手な結果などなど...
スリルを求めるなら、PKが一番だ。
まあ、所詮はダンジョンボスも、NPCであるのだから。
プログラムに沿った動きしか出来ないと思い込んでいる者からすると、このダンジョン体験は物足りないのだろうけども。
「いいねえ、いいねえ~ 女がふたり、エロい恰好で腰も胸も揺らして」
「愉しませてくれるじゃねえの?!」
ゲスいのが現れた――天使のナレーションだが。
「蒼には分かってます! これ、新手のナンパですね!!!」
いやあ、そうぢゃないと思うが。
蒼の挑発スキルでお兄さんたちから『あぁ?!』ってイベント発生の受託を受け取ったとこだ。
たぶん、この後はバトルに移行するんじゃないかな。