- C 1071話 文化際・ダンジョントラベラーズ 1 -
天使と出会って、いあ。
憑依されて。
蒼と仲良くなってからこの数か月。
まあ、一瞬だけども。
走馬灯になるくらいの充実した人生の一部を垣間見ることが出来たと思う。
再び、楽屋に元メイド長が乗り込むその時まで。
わたしは、さ。
天使に主導権を譲って、よ。
ひとり心の奥底で感慨に耽ってたんだよ。
たぶん色々な順番を踏み倒しておいて、蒼とわたしと、マルにエリザさんとでヤった。
パジャマパーティーとか、お風呂いったり。
ディープなキスをしたりもした。
『はい、天心さん、バトンタッチです!!』
天使がわたしの背を押して主導権が移譲された。
意識が不意に明るい場所へと誘われたら、目の前には元メイド長が。
くそ、卑怯だぞ!!
「何が卑怯なのですか、お嬢様!!」
いあ。
それは天使が。
「初回にも申しましたとおりに、お嬢様は名門・片葉宗家直流のお血筋で、宗家を継がないのであれば、二葉家の再興に尽力しなければならない身なのですよ?! まず、その自覚を持つべきです」
いつもの小言だ。
解任もしていないのに部屋を出て、さっさと結婚してしまった“侍女長”が言うのか?!
わたしを守ってくれると、約束してくれただろうに。
いあ。
わたしが彼女を拒絶したのだ。
それで己の幸せを優先した――結婚した幸せな姿を見せて、わたしに教えるために。
でも、裏切者に違いない。
「...っ、だったらどうだってんだ」
思っても見ない事って。
ストレスによって心の底から押し出されるものだな。
いあ、思っても居ないってのは語弊がある。
思ってても口に出さなかったのに、だ。
でも、今。
彼女の目の前で吐いてしまえば一緒か。
急に元メイド長のトーンが下がった。
「今、なんと?」
「だから。片葉も二葉も、わたしにはどうでもいい事だから!! 継ぐ気がないって言ったらどうだって言うんだって話だよ。卒業式を迎えた朝、ひとりだけ残された部屋から登校する。帰りも、誰も卒業を祝ってくれない... 入学だってそうだ、結局この2年間は...わたし、ひとりで生きてきた!!!!」
やや憎しみが混じる。
楽屋外には蒼の気配があるんだけど、こればかりは止まらない。
今、吐き出さないと、たぶん前に進めない気がする。
◇
元メイド長の顔がまともに観れないけど。
彼女の拳がぎゅっと固く握られているのは分かった。
おや? これは、どういう。
「そうでしたね、そう。おひとりで...」
たぶん。
唇を真一文字にして噛んでるような雰囲気の口調だった。
「わたくしが軽率でした」
謝罪したのちに。
彼女は一礼だけを残して楽屋を出た――直後に、蒼が入室。
「蒼は難しいことは分かりませんが、今の方、口の端に血の泡が溜まってました」
事情があるとは思ってたが。
いあ、これは複雑な香りがするし。
「そうだ!!」
「はい?」
蒼の手を引き、
「マルたちのダンジョンに行こう! この間はぜんぜん見せて貰ってないから」
蒼は首を傾げつつ。
「その前にヨレたジャージにしますか、それともノーパン、ノーブラのセーラーにしますか...一緒に泡風呂入りますか?」
なんて昭和チックなフリをかます。
そうだ忘れてた。
爆ぜたワンピースに吹き飛んだ下着たち。
気が付けば、素っ裸で舞台装置の地下に埋もれてたんだ。
今はシーツで包まれた、ベトナム春巻き状態。
「あー」