- C 1066話 文化際・開催 3 -
蒼から。
『そろそろ天心さん、燃やされる頃じゃないですか?』と、告げられた。
マーシャル王国立魔法科高校。
中二病だろっていう校名さえ何とかして貰えたら。
この学校の平均偏差値は、本国の名門高校にも匹敵する学力がある。
あるんだよ。
島の連中だって分かってるんだけど。
やっぱり校名がなあ。
色物でも見るような目がな。
ま、まあいい。
半世紀の歴史と、諸先輩方の実績とで。
中二病さを払拭してきたわけだが。
◇
演劇の冒頭は、エリザさんが演じる“聖女”の情熱的な愛の物語だ。
普通科の生徒会長が『ジル・ド・レイ将軍』を演じてくれている。
身長は170の後半。
エリザさんもハーフらしい成長ぶりだが、やはり彼の肩ほどにか届かない感じで羨まれてる。
顔を埋めるのは、がり勉高校生にしては厚めの胸板へ。
「お、やっぱり絵になるな、あのふたり」
舞台の袖から絡みに注目してた。
将軍の選出は、運営からの打診。
失礼なことに、お前なら相方として不足なしと、告げたそうだ。
『でも、エリザさんは不満のようですよ?』
天使が呟きを会話に成立させた。
「そうか?」
『マルさんとの絡みを見せたかったんでしょうねえ』
あんな“わんぱく”なののドコがそんなに。
それは盛大なブーメランだと知る。
逆にわたしの蒼への想いだって他人から見られたら、そういう事だ。
『そろそろ幕が下りますけど、将軍の篭絡って?』
「夢の中で、聖女に成りすまして毒の盃を飲ませるんだってさ」
幕が下りる。
チャンバラのようなアクションは後半へのお預けだが。
観客への度肝を抜きに行った、聖女の半身のような乙女の登場は――ハプニングの連続から始まる。
まず、肩紐が。
あたしの想像以上の重さに耐えられなかった。
耳元で乾いた音が響く。
愛おしく将軍を誘っている最中の出来事なので、演出だと思われた。
そのあと、だが。
将軍の腕の上に『あたし』が零れ落ちて、だ。
両手で受け止めてくれた。
いや。
なん、つうか。
駄肉があああ!!!
「二葉、さん?!」
困惑しているのは普通科の生徒会長さんだ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
こんな、肉、重いですよね。
ごめんなさい。
「いえ、役得です。すっごく柔らかくて、その、気持ちいです!!」
これは小声なので、観客席側には届いていない。
だが、篭絡する――パンフレットに掛かれてたシーンでの乳出しなので。
脚本家チームと、運営側はこぶしを握り締めて納得してたっぽい。
ま、さ、か、ああああ?!
◆
――打ち上げ。
初公演は無事終了した。
衣装はすべて買い取りで数着用意されてて。
肩紐がはじけ飛んだのは一着だけだ。
「ハプニングに自我を忘れないとは、肝が据わっているな? 二葉君!!」
演劇科の演出家さん。
講師の人だけど、ジル・ド・レイ将軍をベッドに押し倒したところでシーンの切り替え。
わたしは衣装替えが出来たわけだが。
「で、どうだったね? 二葉君の“おっぱい”を救助した触り心地は?!」
あ、そっちに振る。
生徒会長は耳先を赤くさせて、
「めっちゃ気持ちよかったです」
「蒼は嫉妬します!!」
服飾デザイナーとしてスタッフ参加の蒼さん。
まあ、なんですかね。
この蒼と二葉は付き合ってる感の雰囲気。
打ち上げの優しい空気が心地よかった。