- C 1057話 もう、次から次へと... 2 -
確かに『落ち着かない』とは言ったよ。
肩ひもは絞れても、トップからの帯の方はそうもいかない。
一番窮屈になる深いとこでの留め具でも、お椀の中のゴム毬はこう、落ち着かない様子で左右に揺れて。
上下に揺れるとこの違和感は顔を覆いたくなるような恥ずかしさに変容する。
大きくため息をついて。
下から急に押された感じがした。
あ、マルだ。
そうだった。
膝の上に飛び込んできて、しばらく哀願の猫のようにじゃれてたんだ。
『ママー』
幼い子に指をささせて。
母親どもが、
『あれを見てよ。百合よ、百合... 青春ねえ~』
好き放題にいいやがって。
百合じゃねえよ。
小動物が“おっぱい”にじゃれてるだけだろうが。
◇
普通科の出し物の準備を終えた、蒼と合流。
エリザさんが迎え入れて。
マルとわたしの奇行を目撃した彼女。
や、やば?!
『浮気ですもんねえ』
うっさいなあ、天使。
蒼は、メモ帳を胸の谷間から引っ張り出すと「マルさん、そのまま天心さんの“おっぱい”を突き上げて!そう、そうですもっと力強く、弾いて弾いて、そうそうそうです!!! 興奮しますよ、もっと爪立ててみましょう!!」なんて指導まで始めてた。
ああ、スイッチ入ったなあ。
いあ、あたしは口から変な声がバシバシ出てたわ。
弾かれた駄肉が顎に当たるし。
重力に逆らって超重量級の贅肉が上下するんだよ。
首はいてえわ。
腰や背中に変な筋肉痛がくるわで。
演出家・蒼のリクエストの締めが。
「マルさん、吸ってみましょう!」
だった。
◇
神学科の出し物は演劇。
『聖女ジャンヌダルク』いつもの演目だけど、奇数の年は凝った演出になることが多い。
確か、2年前はヘンリー6世が呪術に狂って、ゾンビを使役し。オルレアンを死と恐怖で埋め尽くそうとしていた的な――そんな演劇だったという。
何やってんだ?!
とか思ったけど、天使曰く
『歴史的に見ても、当時の王は錯乱気味でしたし。ヨーク公の台頭を招いた原因のひとつですからね、多少の凝り性は目を瞑っても。なかなか興味深い脚本のように思えます!』
とか。
まあ、こんな長いこと生きてる生物が言うんなら。
『生物じゃなく、高次元の、天使です!』
とりま張り倒した。
魔法科は簡易ダンジョンを作る傍らで。
わたしたちの演劇に、エフェクト効果で参加してくれるという。
いわゆる、最後のシーン。
ジャンヌが火刑に処されるときの炎だが。
いつもはライトの明暗でそれなりの手作り感を作り上げてたわけ。
今回から――生徒会長曰く、
「二葉さんを盛大に燃やすことにしました!! 魔法科のみなさんの協力により、ARゴーグルを会場に配置することが出来る上に!! 本物と見紛うごとき派手な炎のエフェクトが用意されています! ジャンヌダルクBパートの二葉 天心さんにはしっかり燃えてもらいましょう!!!!」
拍手が盛大過ぎる。
にゃろーなんで、私が燃やされるんだよ。
『うーん、自業自得?』
殴っといた。