- C 1051話 蒼とわたし、そして... 1 -
人工島に季節感はない。
年中真夏みたいな気候のせいで、暦の上では“正月”なのにって時もそうだけど。
振袖、晴れ着なんぞ一生、腕を通さず水着ばかりの赤道直下――そういえば、天使のやつが“うれし恥ずかし〇丘のスジ”なんて噺をしてた時があったな。あん時はまあ、パートナーはいないと、突き放したものの。
心中では、ずっと蒼ことを思って、手の汗が酷かった。
考えてみりゃ。
学院でも、アレにわたしの水着見せられるじゃん、よ。
人工浜のわざわざ他人の目が多い中に連れ出すよりも。
ちょこっとプライベートっぽい学院のプールの方が。
『何言ってんすか!!? 学科違うのに、体育の授業で会うことないでしょ。現実見ましょう、現実――座学受けながら夢見れるなんて、どんな裏技使ってるんです? あ、天使がいましたね』
天使があたしの目の前で、神々しいまでの光を浴びて告げてきた。
机の上では正座している。
思わず怒りだけがそっと沸いた。
『天心さんは、神学。因果ですけど、神さまの愛を別のアプローチで知る学科にいるんです。で、逆に蒼さんはああ見えても、進学中級階位の女生徒さんで。院内の格付け版では中の中、“振り向いたら向日葵”、“影があって、なんかほっとけない”という評価のある隠れファンの多いお嬢さんです』
あ、ありがとう。
わたしの知らない蒼の評価を。
それで、わたしには... 何、嫉妬しろとでも?
『嫉妬は、おっと』
危ない、じゃない。
飛んできたチョークに反応して回避した天使のせいで。
わたしが回避できなかった。
直撃も直撃。
クリーンヒットで――『今の攻撃で天心さんのHPが15減りました。残存にお気をつけて』なんて余計なアナウンスが入ってきた。ま、天使の声なんだけども、だが。
「うわの空で、わたくしの授業を受けられても困るのですが?!!」
マーシャル王国の歴史の勉強で、呼ばれた講師からの攻撃だ。
怒気まで素晴らしい模範解答で翻訳してくれる現代技術に感謝しないとだけど。
まあ、こういう時は。
できればはぐらかしてほしい。
「さーせん」
2発目のチョークが飛んできた。
流石に軌道が読めれば、着弾点も観える。ややスライダーっぽい曲がりを見せたところで。
「デキますね?」
「まあ、伊達に...です」
亡き兄の。
ふたつ上の兄のバッテリー相手にされた経験は消えやしない。
いっそ、女子の野球部でもあれば入部してたかもしれない小技も持ってるけど、流石にこの私立にソレはなかった。
4区、方角ごとに定められた区画に私立2、公立3で甲子園とは。
ちょっと無理があって。
人気のサッカーと、柔道に水泳、あとはビーチバレーくらいか。
基本赤道直下で脳天が灼けそうなので。
炎天下で死にそうなゲーム類は“e-Sports”のみってことにされている。
◇
さて。
教授の真横にやってきた。
神学科の生徒会長さまだが――「見よ! 我が肉体をっ!!!」
あつ、
暑苦しいのが、来た。
教授も引き攣るほどの圧の高さ。
授業が終わりそうなのを見定めて、こっそり入室してきた男。
あ~、面倒くさ~い~。