- C 1046話 キューピッドと名乗る不審者が 1 -
天使のやつが、勝手に買い物に行きやがった。
主導権を奪って。
古びたジャージ姿のまま、だ。
ぺたんこのサンダルで。
ちかくのコンビニへ。
マルの姉ちゃんがバイトしてるっていう。
よりも寄って。
そこへ行くかね、ふつう。
◇
「あいよ!」
マルの姉ちゃんは、なんつうか。
デカい。
たっぱもヤバいってもんじゃなく、巨人。
180はありそうな雰囲気で。
わたしも、女にしちゃあ。
ま、デカい方だと思ってたが――
「まったく、マル絡みか? こんなエロい義姉ちゃん捕まえて、だ。ジャイアントだとか、オーガみたいだとか陰口は、本人に魂えるよう囀るんじゃねえっての」
額を指で弾かれた。
昔は弾き方に特徴があって、その時代を表してたって聞くが。
痛いのは変わらなくて。
マルの姉ちゃんは、客を攻撃したとして怒られてた。
でも。
なんだろ、あったかい人だ。
◇
天使が意識がないままに彼女の下へ届けた理由がわからない。
「不思議なコトにね。天使ってのは、わりと身近に感じることがあるんだよ」
休憩で、コンビニの裏で吹かす。
チョコフレーバーな匂いがする巻き煙草で――
時間の大半は、こいつを巻いてるのに使われてるような気がする。
「フィルターが無いから、肺には入れないよ? 吹かして香りを楽しむものさ、葉巻みたいなもんで葉巻よりも燃えるのが早い。普通は、事前に用意した何本かを楽しむもんだけど...」
目元はじっと、指先にあって。
そこから一度も外すことなく、
「こう煙草入れから、きざまれた草を取り出して均して、整えて、そして紙で巻く。吸い口に付箋紙の細いのでもつっかえにすれば、草が口の中に落ちてこない。先人の知恵だね」
いや、どうでしょう。
わたしは悩みらしい悩みなんて口にしてないけど。
待ってるような。
そんな間がある。
「で、天使だけどね」
はい。
「最近、ちょっと変わったのが居たんだよ」
はあ。
え?
どこで...
「マルらが通ってる、学院。私はさ、2~3か月前にだけど。メイドとして潜入してたんだけども――」
え、あ? 潜入いいました?
なんの仕事してるって。
「――小太りのおっさんみたいな風体で、あ、いや。下半身の方は短く太い足でうまく隠しながら。まあ、ゾウさんが見えないよう飛んでやがったんだが。えっと、ゾウさんからは離れてくれよ、私も思い出したくないから... で、だ。ちっこい弓もってふわふわとだな」
火のついた巻き煙草を指に挟んで。
こう、ハエでも払うようにぶんぶん腕を振ってて。
えっと。
火、落ちそうなんですが。
『それ、キューピッドのおっさんですね!!』
天使が出た。