- C 1045話 気になる子が、5 -
蒼 勇樹の魅力は、わたしが一番よくわかってる。
てか、この素敵な友達を誰かと分かち合うなんて。
『恋って盲目言いますけど。そこまで片思いだと、存外、ドン引くもんですね?』
天使がわたしの視界に覆いかぶさってきた。
巻き毛が口に入る。
ぺっぺぺっ。
『心外です!!』
髪が口の中に入ってきたから吐き出したんだが。
その行為がよくないと、天使が抗議した。
「――ったく、マルとじゃれやがって。途中で身体の制御奪って、アレとチャンバラしたのは何処のどいつだよ!! 蒼との貴重な時間がパーじゃねえか!!!!」
放課後の事だ。
釈明まち。
『あれは... 蒼さんがどうしても、と』
なんで。
普通科に通う蒼は、美術部に在籍している。
部員は同人誌というのを制作しているオタクって死語の連中。
電子書籍が主流になって以降も。
紙の温もりが忘れられないって旧人類っぽい一部の人たちが。
そうだなあ地下倶楽部的に活動しているイベントがあって。
それらの商品を自作してるって話。
すげえ、クールじゃね。
フィルムに焼いて、インクを載せて、輪転機で刷る。
マジ、本格的。
工業科の連中が作ってくれたんだとか。
試しに、
「これが天使さんモデルの天心さんです!!」
お、おお。
複雑な気分だけど。
『受肉したんで、天使と天心さんは一心同体です!』
だろうな。
ひとつの心じゃねえけどな。
4畳ひと間みたいな表現しやがって。
「ありがとう。うん、確かにホットな気分に、なる」
乳首、勃ってねえよな。
谷間の内側がきゅんきゅんして、心臓の鼓動が外に漏れ出そうな気分だ。
うわああああ~
ちょ、止まってくれえええ~
『マジ、止めます? 死にますけど』
天使、出てくんな。
◇
蒼と手を繋いで帰宅。
手を繋ぐイベントって急に来たんだよ。
それは一瞬にして。
マルのやつが、
「ほら、もう。じれったいなあ~ 友達は手を繋ぐんだよ」
いや。
絶対に違うだろ。
あいつが強引に蒼と手を繋がらせて。
やべ、覚えてねえ。
手汗、ヤバくないかな。
「蒼は人工島生まれじゃないんです」
本州で何かあったっぽい。
理由は伏せられたけど。
彼女は見知らぬ土地で、生き直すことにした。
それが人工島へ来た理由だといった。
逃げることは、悪くない。
一度離れて、見つめ直す時間は貴重な時がある。
たぶん、未だ、ここに未練があるなら。
「そしたら」
「うん?」
「天心さんと出会ったんです!」
なんか心なしか。
急にぎゅっと強く握られたような気がした。
「ああ、わたしもだ」