- C 1029話 プリズンブレイク 4 -
占領されている刑務所内の治安は維持されていた。
陥落後のごたごたは残っていたけども、いざ治安――つまりは、監獄のスペースと職員のセーフスペースには大きな混乱がなかったことになる。
ま、現実的に抵抗するものがあれば程度の差こそあれで。
射殺もあったんだけど。
それは抵抗する者も、同様に排除することが目的で武器を手に取っていた場合によるからで。
その限りではない抵抗は、言葉を尽くして説得された。
その成果もあるんだろう。
ヴィランらの占領下では民間人の怪我人でさえ、深刻なものはいなかった。
◆
さて。
監獄スペースの方も、銃器を構えてた看守の姿から、傭兵に交代したものを目撃した者が出る。
警告を意味するブザーと、赤色灯が回る非日常の風景に。
運動場に出ていた軽犯罪・特殊犯罪者は戦慄すらしただろう。
そして交代を目撃して勝手に活気づく。
『やった、これでこの監獄島からおさらば出来る』と。
運動場の熱気と歓喜。
これが地下へと続く隔離区域・箱型牢へも伝わると、収監されてたボスたちが。
『傭兵どもめ、気が利くじゃなねえか』
ってな具合で事態も掴めていないのに、勝ち誇るような気分になってた。
そりゃ、運動場の小物と同じ騒ぎっぷりだったようで。
占領後から半日。
解放されれば兵の一人になってでも生き残って、組織に忠誠のひとつもアピールしたい小物たちは吐き捨てるよりも多くいたけど。ヴィランは監獄エリアを封鎖したままにおいてた。
看守長以下、抵抗して落命した職員以外の生存者に対し『協力をお願いしたい』というもので。
「具体的に何をすればいい?」
看守長が400名超の命を預かって問い質し、
「監獄エリアの監視は今まで通り、あなた方で監督しておいてください」
看守長の顔が曇った。
対するヴィランの長も見ていたが何も告げない。
「それで君たちにメリットが無いのでは?」
「いやありますよ。さらなる混乱から、あなた方を守ることが出来る。少なくとも、今、この状況下において自治政府と傭兵らの間には排除の二文字しかない。都合よく...政府が飼い犬か、餌をやるだけの関係にはしないって事ですね。俺も同じ立場なら怖いんで排除しますけど、これと其れは違うんで、はい。生き残るために――ひとつ、協力してほしいんです、お互いに」
キーワードは“生き残る為”。
特殊武装警察隊は、実力で排除して無力化した。
残っている戦意喪失者は4分の1にも至るか不明なところだが。
人質交渉において正確な数より、曖昧さが強い。
◇
半日待たされた、マフィアのボスが隠し持ってた外部連絡手段で――
ヴィランの獅子の下に電話をかけてきた。
胸ポケットに二つ折りにしてた紙っぽいのが気色の悪い彩で光ってる。
やや気味悪そうに眺めててから、切った。
製紙会社と特殊フィルム製造社が世界に普及させた、“世界一軽いテレフォン”って銘で謳った電話。
パピルスフォンって呼ばれてた。
折り曲げてもいいし、丸めてもいい。
形状は長方形が採用されて20~21世紀半まで隆盛したスマートホンと同じ形状が採用された。
この時期まで使ってた人たちの“情”のためだと思う。
再び不気味な彩で光る紙を見つめて。
7,8回は周回したとこで切る。
「なぜ、出ないんだ?」
看守長と刑務所長の問い。
ふたりがハモったのはこの時が初めてで。
以後、所長が代表者になった。
「交渉の...、邪魔だから」
よくよく考えての結論だろう。
少し間があった。