- C 1025話 地雷王子、散る 5 -
ボクたちは知らなかった。
凶行に及んだ少女の掛ける先に――オリバー・オスナージュの下だったことを。
えー、これツンデレ要素の塊みたいな、地雷ですけど。
欲しいなら、まあ。
上げちゃいますけど。
やっぱり要らないで。
クーリングオフは、ボク。受け付けないですよ?
◇
救急車が入れば、人工島の警察もセットでやってくる。
まあ、これは刃傷沙汰なわけで。
本人は「やだあ!! 死にたくなーい!!!」と、わりと元気だ。
果物ナイフが脇腹に刺さりはしたものの。
運がいいのか贅肉の脂身を数センチ切った程度で、卒倒して倒れたようだ。
周囲にはみっともなく痛がって見せたのだが。
「暴れたから余計な出血を招いて、さらにショックが重なっての自業自得」
救命士と制服警官の会話。
刃渡りも奥行きと比較して、かなり短く小さなものらしい。
痛い痛いって鳴くものだから。
圧迫止血していれば出血で、顔面蒼白にならなかっただろうと。
つくづくツイていない。
凶行の現場を押さえた警官たちは。
ナイフをもって走ってたという少女の捜索に奔る。
奔る、奔る、奔る、そして散る――十恵ちゃんの手引きで、強面のお兄さんたち混じる大捜索シーン。
生活安全課のみなさんから、タスクフォースの捜査員まで。
キャンディの培養室から危ないキノコが押収されていく。
「タイミングよかったみたいですけど?」
合図は間違いなく狼煙だが。
「偶然にも同学園内で怪我人が出たとの警察無線がありましたから。便乗したほうが動きやすいのではないかと...。まあ、現場だというところに少年が転がってて、周りの子供たちが手を尽くしていたので」
刺された少年の手口は一種の病気だ。
責任能力がないという意味ではなく、長期入院が必要なレベルの。
つまりしばらく社会に出てくるなっていう意味の、だ。
「刺した少女の方が精神的に気がかりだとか」
「思い詰めてとなると...こっちの捜索は他に回す?」
押収すべき証拠はたぶん今が絶好のチャンスだろう。
刃傷沙汰は学校側にとっても寝耳に水。
だから身近にある重要書類だけでも消滅させようと動くに違いない。
それを押さえることができれば。
「いえ、そっちは警察に任せましょう!!」
さあ、捕り物開始だ。
◇
ボクに打ちのめされた、オリバー(仮)の下へ少女が現れる。
手元で鋭く光るのが刃物だってことは一目瞭然だ。
えっと、調理学習か。
サバイバル訓練でした?くらいのリアクションしか取れないけど。
血糊がついた獲物だってことは理解できる。
「その方は悪魔じゃない!!」
切っ先がボクに向けられる。
彼女のファミリアには、この状況がどう見えているのだろうか。
首の後ろに装着した機械には端末サイドでのAIと、学園内にあるサーバーの中にあるAIが連携して、色彩豊かなファンタジー世界を現実の上にフィルタリングで被せてくる仕組みになっている。
確かに感情の起伏によって、効果は千差万別なんだけど。
使用者の機微を感じ取ってまったく別の何かを見せてくる時があるようだ。
現象の再現性が見つからないため、研究は進んでいない。
ただ、目の前の少女は。
「大丈夫!!」
駆け寄ったオリバー君は、固く握りしめてたナイフを彼女から奪って。
目撃してしまったボクを赤面させつつ、強く抱きしめていた。
まあ、保護したんだとは思うんだけど。
『これはフラれたかな』
ボク、が。