- C 1023話 地雷王子、散る 3 -
変態
それは他愛もない会話の一つで。
ボクにとっては、同じ学園の男の子くらいのとらえ方でしかない。
ただ、声を掛けられ。
気になってしまった女の子からのアプローチとくれば。
そりゃあ、舞い上がってしまっただろう。
双子の兄は、まあ。
酷い男だ。
抜群に美しい顔と、長身細身のスタイルは芸能プロダクションもほっとかない。
中学に入るころにはファッション誌の表紙を飾り。
特集すらキメる大活躍を見せた。
その背後には父親の大物政治家としてのコネもある。
息子が華やかであれば。
外務大臣の父親も、長身イケオジの有能さをアピールする。
ああ、似た者親子だ。
その兄の評判だが。
不要になった少女を袖にするときには、弟が矢面に立つ――所謂、アレだ。兄貴の名声を利用した愚弟が、なりすましで不同意性行為に走ったとする問題。弟は自分を殺して、少女に騙る「一時でも兄貴を手に入れた気分はどうだった? 時間が来れば魔法は解ける、それが今だっただけと思えよ」と。
セリフも兄貴が考えたものだが。
早く忘れちまえって祈りを込めた軽薄さは、彼なりの優しさである。
届くかどうかはわからない。
ただ、ふった少女の恨みは買っている。
で。
地雷王子はボクを探してた――えっと、相手になったげるよって突き放してから、そう。
ちょうど7日余りになる。
忙しかったんだよ。
ダンジョン出入り禁止明けから2徹で56階まで駆け上がった。
コンテニューを4回も取って、ようやく55階のボス部屋をクリアして――難易度が桁外れに高くなってて。
たぶん、前に上級生の聖女クランを解体させちゃった頃から修正パッチが当てられたんだね。
ボクにだけ難易度の枷がついてるっぽい。
ハンデキャップみたいな。
で、エサちゃんにせがまれて埠頭へ行った。
今、絶賛逃亡中だし。
◇
そんな地雷王子は、木剣を二振り持って女子寮前に陣取っている。
ああ、みんな気持ち悪がってて。
「ハナさ~ん、ヘルプぅー!!」
女子寮長の聖女さんがハナちゃんに泣きついた。
他の侍女さんらは、ただのメイドである。
モップの柄を握ってぶんぶん唸るような振り方はできない。
「やった、やる気に」
「まあ、変態を野放しにしていると。他の変態も寄ってきますからね、下着泥棒に...盗撮、あるいは覗きに、盗聴とか聞き耳を立てて、壁に張り付かれるのも面倒です。マルお嬢様のはかなり重度な変人でもなければ盗まれる心配はありませんが」
ハナちゃん酷い。
「それは主人にたいして」
「いえ、事実です。小学生だと間違えた小児性愛者の真性なる変態が、毛があったという理由で丁寧に梱包もして返却してきたくらいです。かなりド変態か、変人でもない限りはお嬢様のは安泰ですが。どうも同棲し始めたエリザお嬢様は規格外です。メロンパンみたいな下着は盗まれたくはないですねえ、私たちの安全のためにも」
何と戦っているので?
まあ、寮生もそう感じたっぽい。
さあて、地雷王子とハナちゃんの戦いが始まる――?