- C 1021話 地雷王子、散る 1 -
エサちゃんの学友である聖女を含めた“クラン”の構造は、聖女を頂点とした絶対君主制のような、支配階層がはっきり区別された形で成していた。よくある平民出身なのに強力な白銀の魔法を発揮して、人々の不安とあるいは苦痛なんか取り除いていくとか。
そうしたドラマ性はまったく皆無な、純粋に圧力で支配された構造である。
生徒のロールは早い者勝ち。
入学支度金と寄付金の額でもって男女の差別なく、好きな役を取得できるようになってた。
ただし、エサちゃんの記憶によると。
「うーん。わたしが1番だったのは揺るがないと思うんだけどね...寄付金はお爺ちゃんが半分もってくれたんで四ツ橋のお姉ちゃんとは同額だって話で、入学の時盛り上がった記憶あるし。んで、その時には聖女の枠がグレーになってたと思う」
つまり売れていたという。
ボクを出しに十恵ちゃんがエサちゃんから聞き込んだ情報。
これらを基に。
◇
「八ッ橋家の紹介で、非常勤講師を申し込んだお蔭で。彼らの手先だとしてずっと監視してくれましたよね?(後ろでにあった腕が、今、十恵ちゃんの目の前にある)まさに好都合!! だって、構内の中、誰が常にいないのか把握するのに、大した手間がかかりませんでしたよ」
指の状態をまじまじと確認している聖女。
背中に腕を回させ、親指に拘束バンドが咬ませられた状態だ。
親指の爪同士が向かい合うような形で組まれているわけで。
動かせるにしても限度のある条件。
「これですか?」
さらに親指を聖女へ突き出した。
付け根に少々、切り傷が見えるものの然したる外傷がない。
そんな風に見えるわけで。
十恵ちゃんは少し残念そうに短い息を吐いた。
「...聖女は、あれですねマッチポンプだ。“恩寵”には元々、強力なカフェインが使用されていた。珈琲愛飲者によくある飲み過ぎると、カフェイン中毒になるという健康被害を先ず火元とします。養護講師でもあるあなたは、過剰に服用している生徒に睡眠導入剤のようなタイプのものを処方して、“恩寵”に向くよう誘導した。過剰服用者は、魔女の宴かなにかで...おそらくですが、学生に扮した売人の誘致なども手引きしたってトコですか?」
囚われの身でよく喋る。
そのおそらくも...
“恩寵”の弱い幻覚では物足りなくなった生徒たちが、ハメを外した結果なのだろう。
出回るはずのなかったクスリたち。
マフィアは資産家の令嬢や令息たちの財布で資金洗浄することに味を占める。
学園の講師たちが関わった細やかな犯罪の謎解きがなされたわけだ。
「――だとしても、証拠はない」
十恵ちゃんが室内を見渡す。
「まあ、今のところは私の推測半分ってトコですね。グレイシー君の妹さんが助け出されると、形勢が逆転しちゃったりしますけど? そのあたりのセキュリティは如何ほどでしょうか」
「こんなトコで何、その質問。非常勤講師のあなたが縄抜けの名人だと分かったくらいで、この牢までも破れるとでも思ってるの?! だとしたらおめでたいという外...」
少し、頭を巡らす。
たぶん一周してきたんだろうけど、聖女は引きつった表情に変じて。
「ちょ、わ、わたしを盾にとか、使わないわよね????」
「さあ」