- C 1016話 アンダーグラウンド・ゼロ 6 -
気にしてるの?って、耳元で囁いたらツネられた、ボク。
エサちゃんが気にしてた敵の動向だけど。
階段に仕掛けた閃光弾で、殺到してた前衛の連中が顔を覆って転がってる。
閃光弾の爆発も。
顔や手の柔らかい部分に食らって無ければ、火傷も軽度で済む。
けど...
上がれ、上がれとせっつかれてたし。
四つん這いになって階段を這ってたりしたら。
ちょっと分かんないなあ。
◇
階段で貰い事故があれば、
普通、慎重になるだろう――ひとつ、ふたつは警告としての非殺傷兵器が仕掛けてある。
人工島の内側で無かったら、当然ともいう形でトラップのワイヤー先には、手りゅう弾がくくられてある。足止めは勿論のこと、屍を越えて来る敵の数は出来得る限り減らしておくに限るからだ。
足を上げる先で、ひとつ。
ピンと張ったワイヤーが見つかるようにして。
びっくりして引き戻す先で、もうひとつ。
ワイヤーのサンドイッチで――ドカン。
もっと近寄らせないなら。
「何を使うの?」
興味本位か、或いは話題つくりか。
「対人地雷」
彼女の瞳から光が消えた気がした。
指向性対人地雷とも言われ、爆薬の力で鉄球ほどの礫を放射状に飛ばす。
今、中央駐屯地へ投じられている擲弾筒と原理は同じ事だ。
「え、えぐ...過ぎ、もうちょっと、一瞬にあの世に送ってあげなさいよ!!」
別の方向性で怒られた。
えー、あっさり死んだら、恐怖なんて刷り込まれないじゃ~ん。
「また、そんなことを」
今度は呆れられた。
手りゅう弾ともなれば、階段だけでなく建物にも聊かな被害が出るだろう。
爆破される可能性で建築はされないだろうから。
対人地雷は爆薬量が少ない。
爆殺ではなく、鉄球を飛ばしたい方向に定める力さえあればいい。
もっとも覆い被されば爆死にもなるし。
無数の鉄球が飛んできて致命傷にもなる。
「あっさりか、否かはその時々に由るんだよね。実際...」
理不尽による死か、不運による死か。
反政府活動家の別動隊。
ホテルに侵入してきた彼らの目的は、政府に関係する人物が当該ホテルにあるという情報のみだ。同じ思想を持つ同志からネタを得たようで、どうしても諦めきれない事情があって。
学生っぽい同志が傷つき倒れても。
彼らは前に進んで。
やっぱり傷ついた。
「おっと」
今のはクレイモアだ。
発煙弾に、催涙弾、閃光弾といろいろ混ぜて、士気を挫いてたんだけど。
そんな警告を無視して上がってきてしまったわけだ。
「な、なに?」
音の違いはエサちゃんには判らないけど。
「ボクの背中にぴったりくっついて、そそ、おっぱいが頭の上に載るんかー、載るのかあ。お、重い」
「わたしは急に軽くなったけど?」
屋上へ出たのは救難ヘリを呼ぶためじゃない。
近くに駐屯地があるから政府要人以外の飛行許可なんて、早々に下りる筈もなく。
部下が素早くボクとエサちゃんをロープでひと繋ぎにしてくれた。
「懸垂降下で、下階へ行く。目標は、避難用シューターが使える階までだ!!!」
これはエサちゃんに告げたもんじゃない。
ロープの長さは十分だし。
残る不安は...
ボクの体力と筋力くらいか。
だが、しかし。
お嫁さんはボクが護るんだもん!