- C 1011話 アンダーグラウンド・ゼロ 1 -
宿泊してたホテルは高層と言うほど高層ビルではない。
せいぜい高さも100メートルちょいほどで。
パラシュート降下するには飛んで、直ぐに開いて――まあ、待て。こちらが想定する効果方法は、訓練してきた実績がある者の腕次第だ。素人のエサちゃんにバディが付いたとしても、誰かが怪我をする。
八ツ橋 依李紗はこのホテルから傷一つなく助け出し。
良くてボクらが八ツ橋本邸まで送り届ける必要がある。
最悪は黒豹便の連中に頼むことになるんだろうけども。
心象が最悪なのは。
まあ、後者だろう。
無事に還せないのであれば、危地に誘い込ませるなって。
ボクの立場はどうでもいい。
ボクを買ってた十蔵お爺ちゃんの当主判断が疑われる。
後継者問題にもややこしい、ケチがつく。
っく。
十恵ちゃんの話に耳を傾けるんだった――。
今更だけど、頭の毛ごと引き千切りたい気分だ。
「どうして屋上へ?」
防弾盾を掲げて後方に、二段列。
側面は通路が壁に成るから、移動の正面は要警戒モードだけ。
「屋上に至るルートは非常階段だけに絞られる。敵の侵入がひとつに絞られるのは守る側にとって都合がいいんだよ。罠も張れるし、最悪十分に時間を稼ぐことが出来る。ホテルに警察が突入してくれるまでの時間、要警護人を、護り切れるか否かがボクたちのミッションってことかな」
その要人本人は「?」が浮いてるようだが。
「じゃ、わたしにも9ミリを頂けるかしら?」
なんて口に出す。
「ちょ、9ミリって... マジ?」
軽く頷く金髪のハーフ。
北欧に仕事で遠出したという十蔵氏の嫡子、八ツ橋 勝利氏。
まあ、どんなに奇麗に言い繕ったって。
彼の職業は『冒険者』である――異世界の便利屋じゃなくて、其処に山があるなら登らなきゃ損とかのと似た人種で、沈没船の調査や、遺跡の発掘に、盗掘された美術品の回収などが主なしごと。
そんな流れで北欧に行った際。
見つけちゃったのが、元王族の血筋だって噂のエサちゃんママン。
どういう訳か。
娘には物心ついた時から、傭兵紛いの訓練をさせてきてた。
誰だっけかかな、十恵いやハナちゃんかな。
筋がいいってウリだったが。
「9ミリの方が怖いんでPDWを預けるよ」
ハンドガンを素人に渡す。
テレビやコミックの読みすぎで、片手でグリップを握って横に倒す傾向がある。
遊びでも倒すのはノーだ。
見かけたらボクがグーで殴ってやる。
『おまえ、怪我したいのか!!!』って、怒ってやるよ。
マジ危険だからするな。
スライドの反動は軌道にも影響するし、支える腕にも深刻だ。
また、廃莢された真鍮は火薬の爆発によって灼けていて。
火傷、怪我、或いは目に当たれば失明も考えられる。
身体から外側へ離れるように飛んで行くのが、倒したことでまっすぐ顔へ飛ぶことがある。
これが理由でハンドガンを素人に渡さない。
PDWの使用思想のほうは単純で。
普段、技量の必要なライフルで精密射撃している訳じゃない兵士にも、自然と身体が固定されて。
的に銃弾が集中する姿勢に成るよう誘導されるものだからだ。
特殊部隊の連中が売り込んでくる理由なのだが。
使ってる弾丸も小口径だし、被せるように身体を丸めないと射撃し難い設計なので。
ま、反動が小さく感じられる点も大きいか。
「エサちゃんは基本、ボクらの影に隠れててね」
「はい」
いい返事。
◆
この時点では、ボクたちは知らされてなかった。
中央駐屯地が標的の中心にされた理由と、要人が基地から外にあるという流言。
これらのすべてが囮であって、作戦の内だったこと。
十蔵さんが知れば何人の首が飛んだことか。
いや、それでも強行しただろう。
当局にすれば島の害獣駆除が今しかないと思ってたからだ。
タスクフォースは、地下組織に対して宣戦布告した――。