- C 1008話 ヴィランフォース 3 -
「グランド・オーダーが拡大されるなら、必要な数を言え! こちらもその依頼を全力で応える」
窓口が今、エサちゃんを通じて自治政府から八ツ橋 十蔵になった。
交渉事か力押しか。
後者の方が得意だし、どっちかと言うとこちらの方で解決されるケースも多い。
身代金を受け取って円満解決するタイプは、ビジネススタイルとして確立されてる場合が多いし。
双方で交渉人が出て来て、話し合いで決まる。
決裂するパターンの方がとくに珍しいパターンだ。
あっちはあっちで金は、1ドルでも欲しいのだから。
まあ、わりといい落としどころはあるものだ。
決裂してしまう場合は――
最初から方向性が違う時だけ。
向いてる方向が違うのだから、合意する筈もないし纏まる筈もない。
「さて、傭兵団から何人出せばいいかな?」
事前調査で百人余り、外国人観光客を装った兵士が1個中隊ほど潜り込んでる。
旅行ビザぎりぎりまで調査してきた。
今回も呼ばなかったことで、たぶんキレてるに違いない。
マナーの悪い外国人観光客がいたら、ボクんとこの連中です、ごめんなさい。
「ちょ、待って。お爺ちゃんと打ち合わせしてくる」
ボクを突き飛ばしたエサちゃん。
ついぞ抱き合って乳繰り合うか、否かの葛藤のすぐ後の仕打ちがコレだ。
床に転がるボク。
あ、そんなご無体な。
セリフだけでもかっこよく決めたのに。
「部屋、出ちゃうの??」
情けない声音だったと思うよ、ボク自身。
道端に捨てられそうな小動物みたいな心細さ――ボクらしくないなあ。
「準備できた時に、しよう!」
意味深な台詞だけを残して彼女は部屋を出た。
他の隊員たちにも部屋がある。
恐らくはホテルのワンフロア分すべて貸し切りみたいなトコだろう。
ま、準備できたら...か。
準備、先ずは風呂、いや、ここはシャワーで汗を流す。
すみずみ、は。
エサちゃんと一緒に入った時にやって貰った方が、うん。
「よし、気合入れて準備するぞー!!!」
※ホテルの壁は防音ではない
◆
人工島の犯罪者にも上下くらいの格の差がある。
今現在、マフィアは3つ。
ロシア系、イタリア系、中南米系。
この島の成り立ちからしたら、ヤバイ連中に目を付けられない方が変だし。
勝手に自由な海域へ移動できるんだから。
変なのが紛れ込んでても。
自業自得なとこがある。
マフィアの資金稼ぎは専ら、洗浄。
違法ドラッグは小遣い稼ぎくらいなレベルなので、身代金ビジネスよりも遊びに近い。
彼らが躍起になる原因じゃない。
じゃあ、なぜ麻薬にヴィランフォースが関与してきたのか。
たまたまだ。
マジで偶然、情報が漏れた。
犯罪者たちの流儀を越えて編成された、法外な兵力がヴィランフォースで。
彼らが恐れているのは、当局が実力行使してくること。
これまでも。
当局との激しい生存競争が繰り広げられてきた。
3大マフィアのボスと、幹部連中の収監とか。
長い戦いの末に。
マフィアも考えた、専用の軍隊を持とうと。
組織毎ではコストも人的資源にも限界が生じる。
収監中のボスによる密談で、15年前に構想が練られ――現在に至る。
「で、(細い溜息が吐いた)誰が。兵隊使って埠頭を攻撃しやがったん、だ?」
肩から腕の厚みが人間離れした雰囲気の怪物が。
小さなパイプ椅子の背もたれに覆い被さるよう、座ってる。
この腕なら簡単に壊れそうだけど。
「あ、いあ、ぼ、ボス!!」
獅子を前にキョドっちゃダメだ。