- C 1000話 蜜蝋の生産風景 2 -
「なにこれ?」
検査薬なんかで蜜蝋を調べる複数の役人。
と、書類に目を通す職員。
艦長の広い背中へ、
「付近で、大規模な演習やってたらしいんですが。もう、暴言が酷くて」
英語での罵り合いだけど、調子の狂う抑揚が入ってる。
こう凄い訛りのある独特なイントネーションで。
「で、結局。何?」
「今は、紅茶について揉めてますね。砂糖か蜂蜜か、ミルクかストレートかとか」
ま、どうでもいい。
他人からすればそういう雰囲気だけど。
履いてた靴を投げるとか始まったようで――チョコも入れろとか騒いでるのもある。
◇
外から持ち込まれる巣蜜はごく一部だ。
潜水艦での配達に頼ってて、大人一人で木箱二つくらい。
ハナちゃんの美容とか、十恵ちゃんの食用に利用。
ま、それでも余るので――
おすそ分けしてたら。
エサちゃんの遊びにも。
彼女の発案によって人工養蜂家ってのが誕生した。
今までも研究はされてたけど、資金不足だった。
そこで大財閥・八ツ橋の出番。
人工島の農産物というのは、日本国内ではタブー化している、遺伝子組み換え実験植物たち。
偽物の土に、偽物の環境で作られるんだ。
海さえあれば何処へでも行ける、自給自足できる客船だと思えば。
食糧事情も納得できるだろう。
そして今年で半世紀も経過している。
島と島の内側と、上空だけは領界になるので一応日本国領である。
当の日本政府は「知らないよ」的な扱いだけど。
これも無茶する連中のせいだが。
さて、こんなに気候にしろ環境が激変してしまう。
というか寒いのが苦手で暖かいところへ移動しまくってるわけで。
植物にも大いにストレスを与えているのだけど、反撃されないのは品種ではなく、その属柄ごと改良したからである。とは言っても、目につく日本に自生していた植物だけの話で、鳥の糞によって持ち込まれたものはこの環境でも逞しく育ってる方だろ。
駆逐するほど勢いのある外来種でも、組み合えられたモンスター植物の前では稚児に等しく。
それでも環境適応していく逞しさ。
さて、そうしたモンスターから採取された果実に野菜だけども。
喰えるようには作ってある。
50年でそこらもクリアした。
クリアしたけど、検査キットでは死なないって判断される。
でも、人間はタフじゃない。
そこで苦肉の策が人工ミツバチによるオーガニックな農法の復活。
青空の下で、堆肥と自然受粉による手間のかかるスタイルが望まれるんだけども。
専門家の絶滅が深刻で。
機械任せの工場スタイルはそのままで、ドーム内を自由に飛び回るミツバチっぽい魔物が受粉して回ってた。
なんせミツバチは絶滅必死なので。
大陸からハチの御裾分けなんてして貰えない。
そもそも学府で獲れるハチミツや巣蜜も貴重な研究資源なのだけど。
エサちゃんのお爺ちゃん。
十蔵さんはボクに甘過ぎる。
買うよって言ったのに。
「ここはお爺ちゃんに任せてくれ!!」
毎月、卸してくるんだよ。
そんなに要らないって...