- C 997話 聖女と魔女 2 -
安直に考えれば、“治癒玉”のように手作り感が強い、捻って捏ねて、捩じり切って丸くした飴玉である方が都合がいいだろう。ひと袋に約5個を詰め込んで、MPドリンク瓶1本分の価格。
安いか、高いかは使用者が決めればいい。
或いはギルドか。
「やはりキャンディーですか」
どうやらコンセプトは間違っていないらしい。
聖女の方も規定だったっぽい。
「治癒玉の方には毒性はないでしょ?」
ま、回復する薬だからね。
副作用はあっても、それが毒だってんなら消費者に控えるようにと注意喚起するしかない。
舐め過ぎたところで...
舌がザラザラになるか、飴玉の亀裂で切るくらいしか。
あとは稀にお腹が痛くなる、くらい?
「知る限りでは、まあ。はい、無いと思います」
聖女が不思議そうにしてる。
ギルドからの報告書が頭の中にあるんだろう。
だからもやもやしてるんだ。
「本当に? あれらに中毒性となる成分はないのですか、それとも後の引く素材、、、と、か」
質のいい濃い目の蜂蜜が混入してあるだけ。
でも、それだって。
苦い漢方薬を『美味』とかって食せるのは上級者だけ。
ボクも愛用している粉くらいあるんで、ギリギリの向こう側に甘味があるのは知ってるし。
ポーションが甘いからって、
がぶがぶ呑む人は先ずいないでしょ????
蜂蜜くらいで、まさか。
◇
そうそのまさか、だ。
最初は蜂蜜くらいでまさかとは思ってた。
べつにいや、特段珍しい素材ではない。
人工島では...
珍しいのかも。
これは大陸の養蜂場から通販で購入した、希少な素材を利用している。
とは言っても、我が家にとっては在庫処分でもあって。
巣蜜って言う素材。
ミツバチが造った天然の蜜蝋のことなんだけども。
人工島では味わえない濃厚なハチミツなわけで。
「巣蜜?!」
人工島出身の少年、少女たちでは知らないのも無理がない。
ミツバチが減少してしまって、人工蜂蜜でしかその存在を知る者はいないわけだ。
「しかも、天然...」
そそ。
極み巣蜜の蜜蝋。
よく噛んで食す必要があるけど、ガムのような弾力と芳醇な香りに濃厚な甘未。
パンにはジャム、檸檬との付け合わせや、砂糖代わりに料理に入れて調味料替わり。
もうね、大自然を近くに感じる食材なのよ。
ハナ姉のうわ言の受け売り。
「ば、ばかな、、、、そ、それではコストが!!!」
グレイシー君は素が出てた。
いや。外交中の扉を開き、ヅカヅカ入ってくるなり大袈裟にミュージカル調で大きく項垂れて。
ボクと手を絡めて、
「私の為に貴重な素材を、ありがとう」
手の甲にキスされた。
うっわ! ばっちいぃぃぃぃぃ~
グレイシー君に見えないとこで甲を拭いまくる、ボク。
笑いを堪える聖女があって。
レディに失礼だろと喚く、アルベルト君。
「ところで、王子たちは?!」
触れなくてもいいのに地雷を引き寄せるのも、ボクだ。
マーガレットは左右に目を泳がせて。
「ば、オリバー君は、居残り補修。シャルル君はえい、家の都合だったかな」
どちらも言い間違えたように取り繕った感があったが。
地雷王子の初見は間違ってないようだ。
あれはここでも地雷、と。